第571話 忍者VS抜け忍
酒場の中で金属音が幾度も鳴り響き、短刀の二刀流で挑むシノビに対してイゾウは風魔を繰り出す。二人の実力はほぼ互角であり、酒場内の机や椅子が次々と切り裂かれて痛く。
「腕を上げたな、シノビ!!」
「抜かせっ!!」
イゾウはシノビとは昔からの付き合いであり、彼に指導していた時期もあった。会うのは10年ぶりではあるが、イゾウもシノビも昔よりも腕を上げていた。
だが、剣術においてはイゾウの方が才能に秀でており、徐々にイゾウが押していく。遂には彼はシノビの右腕に刃を放つ。
「遅いっ!!」
「ぐうっ!?」
腕を斬りつけられたシノビは呻き声を上げ、この際に斬られた腕から手甲が露わになる。どうにか手甲のお陰で腕を切り落とされるのは免れたが、風魔の切れ味は並の武器の日ではなく、手甲は壊れてしまう。
「どうした?その程度かシノビ?このままだとお前は死ぬぞ?」
「ぐっ……」
「遠慮するな……使え、シノビ一族秘伝の魔刀術をな」
イゾウの言葉にシノビは歯を食いしばり、彼は右手に視線を向けた。先ほどの攻撃で右手の方は上手く動かず、確かにこのまま戦ってもシノビに勝ち目はない。
両手の短刀に視線を向けたシノビは覚悟を決める様に強く握りしめる。シノビが所有する二つの短刀は里を抜け出す際に一番腕の立つ鍛冶師に作り出して貰った品だが、妖刀(魔剣)の類ではない。
だが、シノビは幼少期から将来は優秀な忍者になるために育て上げられ、特殊な剣技を伝授されていた。その剣技の名前は「魔刀術」と呼び、普通の武器に風属性の魔力を纏わせる剣術である。
原理を言えば魔導士であるマホの弟子のエルマが扱う「魔弓術」と同じであり、事前に特別な加工が施された武器に風属性の魔力を送り込む。そうする事でシノビは自分の武器に風属性の魔力を纏わせ、疑似的な魔法剣を編み出す。
「斬!!」
「おっと!!」
シノビは短刀を振りかざすだけで刀身に宿った風属性の魔力が放たれ、斬撃と化してイゾウへと襲い掛かる。イゾウは風魔で風の斬撃に対して身体を跳躍させ、それを避けると建物の壁に斬撃の跡が残る。
風の斬撃を扱うといえば銀狼騎士団の副団長であるリンも得意とするが、シノビの場合は彼女のように魔剣の力で風を操っているのではなく、あくまでも自分の武器に風の魔力を纏わせ、一気に放出させているだけに過ぎない。
魔刀術とは付与魔法の一種であり、エルマの場合は矢に風の魔力を纏わせて自分の思い描く軌道で矢を放つ。しかし、シノビの場合は物体に風の魔力を纏わせた状態で攻撃を行うのではなく、魔力を切り離して攻撃するため、細かな調整は出来なかった。
「ちっ……すばしっこい奴だ」
「大した威力だな、まともに受ければ一発で終わりだな……だが、当たらなければ意味はないぞ」
「抜かせっ!!」
シノビは両手の短刀に風の魔力を纏わせ、その状態でイゾウに切りかかった。風の魔力を雇わせた刃は受けた瞬間に風圧で相手を吹き飛ばし、イゾウの身体は壁際まで追い込まれる。
「はああっ!!」
「ぐうっ!?」
イゾウを壁まで追い込むとシノビは両手の短刀を振りかざし、今度は同時に風の斬撃を放つ。まともに受ければ今度こそ命はなく、イゾウは風魔を構えると二つの斬撃が重なる箇所に目掛けて突き刺す。
「がああっ!!」
「何っ……!?」
刃が風の斬撃に触れた瞬間、まるで吸い込まれるように斬撃が消えてしまい、その様子を見たシノビは目を見開く。そして風魔を握りしめたイゾウは笑みを浮かべ、今度は彼の方が刃を振り抜く。
「惜しかったな!!」
「っ――!?」
風魔が振り抜かれた瞬間、まるでシノビの魔刀術のように風魔の全体から風の魔力が発生し、シノビが放ったものよりも規模が大きい風の斬撃が放たれた。
咄嗟にシノビは天井近くまで跳躍した事で攻撃を避ける事は出来たが、イゾウが放った風の斬撃はそのまま建物の壁を破壊し、向かい側の酒場にまで到達した。その結果、黒猫酒場の壁の一部に巨大な傷跡が生まれ、向かい側に立つ酒場の方には強烈な衝撃が襲い掛かる。
『うわぁあああっ!?』
『な、何だ!?何が起きたんだ!?』
『ば、爆発!?』
向かい側の酒場の客や店員が騒ぐ声は黒猫酒場にも聞こえ、シノビは愕然とする。しかし、すぐに彼はイゾウが風魔の力を利用した事を知る。
「貴様、まさか……使いこなせるのか、その妖刀を!?」
「その通りだ……この風魔の特性、お前も知らぬわけではあるまい?」
「くっ……!!」
妖刀「風魔」は風属性の魔力を扱う妖刀であり、本来は魔刀術と組み合わせる事で真の力を解放する。風魔は風属性の魔力を吸収し、それを増幅させて魔力を放つ事が出来る妖刀だった。
風魔はシノビですらも触った事すらなく、一族の長にしか扱え切れない代物だと聞いていた。しかし、この10年の歳月を費やしてイゾウは風魔を使いこなし、遂には彼はシノビの魔刀術を打ち破って反撃を繰り出す事に成功した。
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