第570話 イゾウの正体
――今から20年以上も前、イゾウは和国の人間の子孫であるシノビ一族が管理する隠れ里で生まれた。つまり、彼は元々はシノビ一族だった。
シノビ一族は山の中の里で幼少期から武芸を磨き、何時の日か和国を取り戻すために日夜厳しい修行を受けて忍者としての技術を磨く。その中でもイゾウは特に剣術の才能があった。
一族の人間は里の外を無断で抜け出すのは禁じられており、外へ抜け出す事は出来たとしても外界の情報収集の時しか許されず、決して外の世界で生きていく事は許されなかった。シノビ一族は王国の領地となった場所に勝手に里を作り、隠れ住んでいるからである。
この里の事は決して王国に知られるわけにはいかず、だからこそ一族の人間は情報漏洩を防ぐために里の外に出す人間は信頼が厚く、拷問されても口を割らない人物が最適だと考えた。だが、イゾウの場合は戦闘能力はともかく、性格面に問題があった。
イゾウは確かに腕は立つが、野心家の一面もあって彼は何時の日か里を出て外の世界で武芸者として生きていきたいと考えていた。自分が里で磨いた技術で何処まで上り詰めるのか、それを確かめたいと日頃から他の人間に話す。
しかし、当時の一族の長はイゾウを外界に出せばうっかり口を滑らせて里の存在を離すかもしれないと判断し、決して外には出さなかった。その事がイゾウは気に入らず、彼は今から10年ほど前に里を抜け出してしまう。
勝手に里を出た人間は「抜け忍」と呼ばれ、裏切り者と判断される。その日以降、一族はイゾウに追手を送り込むが、結果から言えばイゾウは全ての追手を返り討ちにする。
後に外界にシノビとクノが送り込まれたのは姿を消したイゾウの居所を掴むため、そして彼を暗殺するために送り込まれた刺客としての役割も与えられていた。だが、皮肉にもシノビとクノがイゾウを探し出すために外界に出向いた後、里は魔物によって滅ぼされてしまう。
――時は現代へと戻り、遂にシノビは里の裏切り者であるイゾウと対峙した。まさか王都で彼と対面する事になるとは思わなかったが、シノビとイゾウは睨み合う。
「イゾウ……貴様だけは許さんぞ」
「若造が……俺に勝てると思っているのか?」
イゾウとシノビは殺気を滲ませながら睨み合い、お互いの武器を構えた。この時にシノビは二つの短刀を両手で構えるのに対し、イゾウは日本刀を構える。その日本刀を見てシノビは目つきを鋭くさせた。
「やはり、貴様がその刀を持ち出していたか……イゾウ!!」
「ふっ……シノビ一族に伝わる妖刀「風魔」は中々の使い心地だぞ」
里から抜け出す際にイゾウはシノビ一族の家宝である「風魔」と呼ばれる妖刀を持ち出していた。この風魔は和国が崩壊する前に作り出された妖刀の一振りであり、一族の長だけが扱う事を許される武器である。
イゾウは風魔を構えながらシノビと向き合うと、どうして彼が自分の前に現れたのか疑問を抱く。里から離れてから10年、完璧にイゾウは里の追手を振り切ったと思っていたが、自分の前に現れたシノビに問い質す。
「シノビ、どうやって俺の存在を知った?貴様がここへ来たのは俺が狙いか?」
「……さあな、それに応える義理はあるまい」
実を言えばイゾウをシノビが発見できたのはあくまでも偶然であり、彼がこの王都に存在する事自体、先ほど初めて知った。
どうしてシノビがイゾウの前に現れたのかというと、それはクノから報告を受けていたからである。彼女はナイに呼び出された時、彼の近くで嫌な気配を感じ取り、それをシノビに報告する。
クノがクロを返した時の羊皮紙はシノビ宛てで内容は不穏な気配を感じるのでシノビにも手を貸してほしいという内容だった。シノビはナイに恩義を感じており、彼の周辺で感じたという不穏な気配の正体を確かめるために訪れた所、その相手がまさかのイゾウだった。
「お前の方こそどうしてあの女の子を狙った?彼女はただの……一般人だぞ」
「一般人?笑わせるな……あの女が死ねば必ずテンも動き出すだろう。そこを狙うだけだ」
「……成程、真の狙いは聖女騎士団の団長か」
イゾウがヒナの命を狙ったのはシャドウからの指示であり、その目的はヒナの保護者であるテンであった。仮にヒナが殺されればテンが黙っているはずがなく、何としても仇を討とうとするだろう。
彼女はかつてヒナとモモが攫われた時に暴れ狂い、闇ギルドの一つを壊滅させるほどに二人を溺愛している。だからこそ二人のどちらか、あるいは両方の命を奪えば正常な判断が出来ずにテンは暴れ出す。それがイゾウの狙いであり、別にヒナとモモのどちらか殺すのかはどうでもよかった。
「女に手を出すとは……この見下げ剥げた奴だ」
「笑わせるな、敵が何者であろうと暗殺の対象ならば躊躇するな……それが里の教えだろう?」
「貴様が里の掟を語るな、外道がっ!!」
既に里を抜け出したイゾウに里の掟を語る資格はなく、シノビは短刀を構えるとイゾウに踏み込む。この際にイゾウも剣を振りかざし、二人は同時に刃を放つ。
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