第569話 イゾウ襲来
「ク、クロネさん?いるなら返事をしてくれる?」
『あら、その声はヒナちゃん?どうかしたのかしら?』
「あっ……な、なんだ。居たのね」
奥の方からクロネの声が聞こえたヒナは安心した表情を浮かべ、彼女はまだ酒場に残っていた事が判明し、安心して中に入り込む。しかし、声は聞こえるが彼女が姿を現さない事に疑問を抱く。
「クロネさん?何かしてるんですか?」
『ごめんなさいね、ちょっと今は明日の仕込みをしていて手が離せなくて……そうそう、財布を忘れたでしょう。机の上に置いてあるから〜』
「あ、はい……」
クロネの声は聞こえるのに姿を現さず、ヒナは不思議に思いながらも机に近付く。しかし、直感で彼女は何かがまずいと思った。
(これは……!?)
机の上に置かれた財布に手を伸ばそうとしたヒナだったが、ここである事に気付く。それはクロネがここにいるはずなのに戸締りを怠っているという事であり、どうして扉が開いたままだったのかと気づく。
クロネの性格を知っているヒナは扉を閉めずに店の奥で料理の仕込みをするはずがない。それによくよく耳を澄ませるとクロネの声が微妙に違うような気がしたヒナは動揺を隠しながらクロネに尋ねる。
「そういえばクロネさん、誕生日おめでとうございます!!ごめんなさい、誕生日の日に祝いに来れなくて……」
『え?ええっ……ありがとう、嬉しいわ』
「っ……!?」
ヒナはクロネの返答を聞いて背筋が凍り付き、声の主がクロネではない事を見抜く。何しろクロネの誕生日はまだ一か月も先であり、声の主がクロネではない事が確定したヒナは逃げ出そうとした。
しかし、扉に向かう寸前に彼女は大きな音を立ててしまい、相手に気付かれてしまったのか店の奥から黒い影が飛び出す。
「小娘が、俺をたばかったかっ!!」
「ひいっ!?」
自分に向かって飛び込んできた謎の人物に対してヒナは咄嗟に横に飛ぶと、直後に彼女が先ほどまで立っていた場所に刃が通過する。そしてランタンの光に晒されてある人物の姿が露わになった。
――ヒナの前に現れたのは男性であり、年齢はまだ20代半ばぐらいだと思われる男性だった。黒髪で肩に掛かる程に髪の毛を伸ばしており、前髪で目元を隠している。何よりもその男の手には日本刀が握りしめられていた。
この人物こそ王都では最強の暗殺者と恐れられる「イゾウ」であり、彼は日本刀を手にした状態でヒナを見下ろす。ヒナは身体を震わせ、何者かを問い質す。
「だ、誰よ……あんた!?」
「……今から死ぬお前に答える必要はない」
「い、いや……助けて!!」
反射的にヒナは近くに置いてあった椅子を掴み、イゾウに投げつけた。しかし、イゾウは迫りくる椅子に対して剣を振り払うと、空中で椅子は真っ二つに切り裂く。
「無駄なあがきを……」
「ひうっ!?」
椅子を容易く切り裂いたイゾウを見てヒナは後退り、この時に彼女はナイから貰った犬笛を思い出す。彼女はすぐに犬笛に手を伸ばそうとしたが、その前にイゾウが踏み込む。
「死ねっ!!」
「いやぁっ!?」
迫りくるイゾウに大してヒナは犬笛を吹く暇もなく、彼女は咄嗟に頭を抑えて身体を屈める。そんなヒナに対してイゾウは日本刀を振り下ろそうとするが、この時に彼は背後から嫌な気配を感じ取った。
反射的にイゾウは振り返り、刀を構えると直後に金属音が鳴り響く。何者かがイゾウの背後に迫っており、その人物を見た瞬間にイゾウは目を見開く。
「お前は……!?」
「斬っ!!」
「えっ……!?」
イゾウに攻撃を仕掛けた男は掛け声と共に短刀を振り抜くと、刃から風の斬撃が放たれ、そのままイゾウを壁際まで吹き飛ばす。その光景を見たヒナは唖然とした表情を浮かべると、そこに立っていたのはシノビだった。
「あ、貴方は確か……シノビさん!?」
「……無事だったか。すまない、助けるのが遅れた。クノ、彼女を頼むぞ」
「承知!!」
「わあっ!?い、何時の間に後ろに!?」
ヒナの後方からクノが姿を現すと、彼女はヒナを抱き上げる。いきなり現れたシノビとクノにヒナは混乱するが、その一方でイゾウの方はシノビを見て怒鳴り散らす。
「シノビ……やはり、生きていたか!!」
「それはこちらの台詞だ……今まで何処に居た、イゾウ!!」
「えっ……し、知り合いなの?」
「説明は後で……今は退くでござるよ」
クノはヒナを抱えた状態で扉から外へ抜け出し、その様子を見たイゾウは彼女を止めようとしたが、その前にシノビが先回りして彼を通さないように立ちはだかる。
「いかせんぞ」
「退け、邪魔をするな!!」
「そうはいかん……恩義を返すいい機会だからな」
「何だと……!?」
お互いに日本刀と短刀を構えながらシノビとイゾウは向かい合い、二人はお互いの顔を見て過去を思い出す――
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