第568話 忘れ物
「――いけない!!もうこんな時間じゃない!?早く戻らないと……」
「た、大変だよ!!きっと、テンさん怒ってるよ!!お尻ぺんぺんされちゃう……ナイ君が!!」
「えっ、なんで!?」
「あらあら……なら、急いで帰った方が良いわね」
夕食の後も話し込んでしまい、夜も更けて街道にも人がいなくなってきた事に気付いたヒナは慌てて屋敷に戻るために酒場を後にした。屋敷に待っているはずのテンに怒られる前にナイ達はクロネに別れを告げ、帰る事にした。
酒場を出る前にナイは街道で一応はクノを探すが、まだ彼女は戻った様子はなく、仕方ないのでクロネに伝言を頼む。
「あの、もしもクノという女の子がここへ来たら屋敷で待っていると伝えてくれますか?」
「え?ええ……クノ?」
「よろしくお願いします!!友達なんです!!」
クロネはクノの事を伝えられて戸惑いながらも承諾し、ナイ達は急いで屋敷へと向かう。リーナは先に屋敷へ帰ったため、ナイ達は急いで屋敷へ向かう。
「ああ、困ったわね……そうだ、街馬車を使いましょうか」
「街馬車?」
「王都は広いからあちこちで馬車が移動しているのよ。夜のような人気のない時間帯は危険が多いでしょう?だから、兵士を同行した馬車が街中のあちこちに渡り歩いているの。その人たちに頼めばお金はかかるけど家まで連れて行ってくれるわ」
「そっか、じゃあ探そう!!」
「ええ、そうね……って、あら!?財布がないわ!?」
「えっ!?」
ヒナは自分の財布がない事に気付き、どうやら酒場に忘れてきたらしく、彼女は自分は酒場に戻る事を伝えた。
「もう、私ったらこんな時に……仕方ないわね、じゃあ二人とも先に帰っててくれる?すぐに追いつくから……」
「え?いや、でも夜道は危険だし……一緒に戻ろうか?」
「大丈夫、私だってテンさんに鍛えられているのよ?暴漢が現れても返り討ちにしてあげるわ!!」
「そ、そう?なら……これを持ってて」
「え?なにこれ……笛?」
ナイはヒナに犬笛を渡し、彼女は不思議そうに受け取る。この犬笛はナイがシノビとクノから貰った代物だが、彼女の身を案じて渡す。
「それは……えっと、お守りだよ。笛を吹けば僕の友達が助けに来てくれるはずだから」
「そ、そう……不思議な物を持っているのね。分かったわ、それなら借りておくわね」
「ヒナちゃん、気を付けてね。もしも怖い人に襲われそうになったら大声を上げて逃げてね」
「もう、平気よ。モモの方こそナイ君と二人きりだからって変な真似をしたら駄目よ?」
「し、しないよ〜……」
モモはヒナの言葉に頬を赤らめ、そんな彼女にヒナは笑みを浮かべると、急いで彼女は酒場へと向かう。ヒナは心配だが、ナイ達は彼女の言う通りに屋敷へと戻る。しかし、そのすぐ後に路地裏の方から人影が現れ、走り去るヒナの後を尾行する――
――その後、酒場に戻ったヒナはまだ店に灯りが付いている事を確認し、クロネがまだ酒場に居る事を確認する。彼女の家は酒場から離れているため、灯りがあるという事はまだクロネは酒場に残っている事を意味していた。
(良かった、まだクロネさんがいるのね……でも、本当に財布を落としたのかしら?)
ヒナは戻る際中に街道も注意深く観察しながら移動したが、彼女の財布はなかった。だからこそ酒場に落ちていると思われるが、自分が何処で財布を落としたのかを考える。
夕食の時は確かにヒナは財布を持っており、クロネが夕食を作り出すと言った時に彼女はお金を払おうとしたが、クロネに断られた。つまり、夕食の時点までは財布を所持していたのは間違いない。
その後、酒場を出た時に財布がない事が発覚し、ここまで引き返して財布がなかったので酒場の中に財布が落ちている可能性は高い。ヒナはそう思って酒場の扉に手を伸ばすと、ここで違和感を抱く。
「えっ……鍵が掛かってない?」
何故か酒場は開いており、確かにナイ達は出ていくときは扉は開いていたが、その後はクロネが鍵を閉めずに放置していたとは考えにくい。王都の夜は物騒なため、住民達は必ず戸締りを行う。
「あの……クロネさん?」
酒場の中は灯りが点いているので彼女はいると思われたが、声を掛けても返事はない。疑問を抱いたヒナは慎重に中の様子を伺うと、ここで机の上に置かれた財布に気付く。
「あった、私の財布……良かった、ここに置き忘れていたのね」
机の上に置かれている事からヒナは安心し、きっとクロネが机の上に置いてくれたのだろうと彼女は考えた。だが、この時にヒナは嫌な予感を覚え、どうして財布だけが置かれてクロネがいないのかと考える。
財布が置かれている机の上にはランタンが一つだけ置かれ、外から見えた建物の灯りはこのランタンだと判明する。しかし、どうしてクロネはランタンと財布だけを置いて姿を見せないのか、ヒナは嫌な予感を覚えて建物の中を見渡す。
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