第564話 声を掛けるなら相手を選んだ方が良い
――商業区は文字通りに商人が経営する店が多く、ここでは市場なども存在する。王都の中でも最も人間が集まる場所でもあり、観光名所も多い。
「ナイ君、あそこが有名なお菓子の店の「桃屋」だよ。私の名前と似ているから面白いんだ〜」
「あ、ナイ君!!こっちも見て!!あそこが僕の行きつけの装飾品屋だよ、可愛い物や格好いい装飾品を色々と売ってるんだよ!!」
「ちょちょ……二人とも、近いよ」
「もう、ナイ君が困ってるでしょ?二人とも少し落ち着きなさいよ」
ナイはリーナとモモに両腕を抱きしめられ、二人の豊かな胸元に腕を挟まれて頬を赤く染める。こうしてみるとモモもリーナも胸はかなり大きく、柔らかさと大きさはモモが勝り、弾力感などはリーナが勝る事が伺えた。
普段はあまり女の子とこうしてくっつく機会がないナイからすれば気恥ずかしいが、リーナとモモは積極的に彼に抱きつき、お互いに笑顔を浮かべながらも牽制する。
「もう、リーナちゃん……ナイ君が困ってるよ。少し離れようよ〜」
「え〜……そういうモモちゃんだってナイ君とくっつきすぎだよ」
「ふ、二人とも……落ち着きなさい」
「……(ぞくっ)」
お互いに笑顔を浮かべているが、何故かモモもリーナも異様な圧迫感を放ち、お互いにナイから離れる様に促す。だが、この時にガラの悪い恰好をした男達がナイ達の前に現れた。
「ようよう、兄ちゃん見せつけてくれるじゃねえか」
「そんな可愛い女の子達を独り占めしやがって……俺達に対しての当てつけか!?」
「えっ……何ですか、貴方達?」
急に話しかけてきた男達にナイは困った表情を浮かべ、相手は3人組の男だった。年齢は20代前半ぐらいだと思われ、全員が冒険者なのか武装している。
急に話しかけてきた3人組にナイ達は困った表情を浮かべると、この時に男の一人が前に出る。その男はナイよりも頭一つ分は大きく、彼を見下ろしながら告げた。
「おい、坊主……俺達は今は気が立ってるんだ。金と女を置いて何処かへ行きやがれ」
「え?何でですか?」
「いいから言う事を聞け、怪我はしたくないだろう?」
「むうっ……」
「はあっ……またこの手の輩ね」
「もう、邪魔しないでよ!!」
ナイは男の言葉を聞いて不思議そうに見上げると、ヒナは疲れた表情を浮かべ、モモは頬を膨らませる。リーナに至っては怒っているが、ナイから腕を離そうとはしない。
そんなナイ達の態度に男達は苛立ちを抱き、一番身長が高くて体格が大きい男がナイの胸倉を掴もうとした。だが、その腕に対してナイを庇おうとモモが男の腕を掴む。
「止めて!!ナイ君に手を出さないで!?」
「あっ?おい、はなっ……いでぇえええっ!?」
「えっ!?」
「モモ!?駄目よ、力を緩めて!?」
「あ、兄貴!?どうしたんですか、急に!?」
モモに腕を掴まれた男は振り払おうとした瞬間、モモが力を込めると万力の如く男の腕は締め付けられ、彼はその場で悲鳴を上げる。周囲の人々は何事かと視線を向けると、そこには女の子に腕を掴まれて痛そうな表情と悲鳴を上げる男が居て増々驚かれた。
「あっ……ご、ごめんなさい!!」
「ひいいっ……う、腕がぁっ……」
「兄貴、変な方向に曲がってますよ!?」
「だ、大丈夫ですか?」
ナイはモモに腕を掴まれた男を心配し、彼の腕にすぐに回復魔法を施す。そのお陰で男の腕は治ったが、彼は怯えた表情を浮かべて手下二人を連れ出して逃げ出す。
「ば、化物だ!!逃げるぞ!!」
「ま、待ってください兄貴!!」
「ひええっ!?」
「化物って……もう、失礼しちゃうな!!」
「う、うん……そうだね」
自分の事を化物呼ばわりした男達にモモは憤るが、そんな彼女に対してヒナとリーナは曖昧な表情を浮かべる事しか出来ない。
モモは見た目は可愛らしい女の子だが、実は身体能力は非常に高く、別にそれほどレベルが高いというわけでもないのに並の人間に勝る力を所有していた。これは彼女がナイやテンを越える魔力量を保有しているからと考えられ、彼女は無意識に興奮すると強化術のように身体能力を強化させ、驚異的な力を発揮する。
魔操術の基礎を教えたのはテンであるが、場合によってはモモは彼女以上に魔操術を扱い、驚異的な身体能力を発揮する。ちょっかいをかけた男は運が悪かったとしか言えず、あの様子ではもう二度と絡んでくる事はないだろう。
その後もナイ達は商業区を歩き回り、お腹も空いて来たので昼食を取る事にした。ここでナイはモモ達が行きつけの店を紹介してもらい、名前は「黒猫酒場」という二人が働いている「白猫亭」と似たような雰囲気の酒場だった。
「いらっしゃい……って、誰かと思えばモモちゃんじゃないかい。久しぶりだね、元気にしてたかい?」
「お久しぶりです、シオンさん。お元気でしたか?」
「久しぶり〜!!」
「どうも、初めまして……」
店の中に入ると掃除をしていた女性がヒナとモモに気付き、嬉しそうな声を上げる。50代半ばぐらいの女性であり、恐らくは酒場の店主だと思われ、すぐに彼女はカウンターの席に案内してくれた。
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