第563話 イゾウの狙い

「――あ、居た居た!!お〜い、ナイ君!!」

「リーナ……早かったね」

「えへへ、急いで仕事を終わらせてきたからね」



噴水広場にてナイは待機していると、一番最初に訪れたのはリーナだった。彼女は普段の動きやすさを軽視した服装から一変し、今回は女の子らしいワンピースを身に着けて訪れていた。


蒼月は家に置いてきたのか手元には持っておらず、首元にはナイが身に着けているペンダントと同じ物を身に着けていた。そしてナイが自分が渡したペンダントを身に着けている事に嬉しそうな表情を浮かべる。



「あ、それ……付けてきてくれたんだ」

「うん、結構気に入ってるよ」

「そ、そうなんだ……良かった」



ナイが自分の渡したペンダントを気に入っているという言葉にリーナは嬉しく思い、ヒナとモモが到着するまでベンチで一緒に待つ事にした。


リーナはナイの隣に座ると、すこし緊張した様子でナイの顔をちらちらと見つめる。そんな彼女の態度に気付かないままナイは先ほどの事を思い出し、質問する。



「リーナ、さっき闘技場で魔物を運ぶ兵士を見たんだけど……」

「え?闘技場?」

「うん、それで運ばれていた魔物なんだけど……」



闘技場に向けて檻の中に閉じ込められ、荷車に乗せて運ばれる魔物の特徴をリーナに話すと、彼女はナイの話を聞いて驚いた表情を浮かべる。



「それって……もしかして魔人族のリザードマンじゃないの?」

「リザードマン?」

「うん、確か王国には生息していない魔物のはずだよ。獣人国に生息する魔物でミノタウロスと同じぐらいの危険種のはずだけど……」

「あのミノタウロスと……」



かつてナイはミノタウロスと戦った事があり、赤毛熊をも上回る恐ろしい怪物だった。当時のナイが勝利できたのは奇跡に等しく、しかもナイが倒したミノタウロスは眠り薬を投与され、万全の状態ではなかった。


魔物を闘技場に運搬する時は移送の際中に魔物が起きない様に協力な眠り薬が仕込まれ、この薬は目を覚ました後もしばらくは意識が朦朧としてまともに動く事ができない。そんな状態でミノタウロスは自分を運んでいた冒険者を打ち倒し、ナイと激闘を繰り広げた。


仮にミノタウロスが薬が抜けきって万全の状態ならば当時のナイに勝ち目はなく、無残に殺されていたかもしれない。そんなミノタウロスと同格に扱われるリザードマンなる魔人族にナイは強い興味を抱く。



「そのリザードマンはリーナも戦った事があるの?」

「う〜ん……かなり昔、僕が獣人国まで遠征した事があるんだけど、その時に一度だけ戦った事があるんだ。でも、あの時は他の冒険者の人たちも一緒に居たし、それに留めは獣人国の黄金級冒険者が倒したから僕はあんまり印象に残ってないかな」

「そうなんだ」



リザードマンとはリーナも戦った事があり、ミノタウロスに匹敵する強さを誇るらしいが、生憎と彼女は他の冒険者と共に戦って挑んだだけで具体的な強さは分からない。


それでも黄金級冒険者が止めを刺したという事は、黄金級冒険者が駆り出される程の危険な相手だと判明する。リーナ曰く、彼女も初めてリザードマンを見た時の事は忘れられない程の圧迫感を感じたという。



「リザードマンを初めて見た時、僕は怖く思ったよ。こんな魔物に勝てるのかって……結局は他の人と一緒に戦って勝ったんだけど、仮に一人で戦っていたら殺されていたと思う」

「そっか……」

「でも、まだ僕が銀級冒険者だった時の話だし、あの時よりも蒼月の力も使いこなせるようになったから今なら負ける気はしないけどね」



リーナがリザードマンと相対した時はまだ彼女は銀級冒険者であり、経験を積み重ねて実力を上げた今ならば彼女もリザードマンに勝てる自信はあった。だが、その話を聞いてナイは疑問を抱く。



(黄金級冒険者が対応するような危険な魔物を闘技場へ連れて行くなんて……アッシュ公爵は何を考えているんだろう?)



闘技場では確かに危険度の高い魔物と戦わされる事は多いが、黄金級冒険者が対処するような危険な魔物を運び込むなど只事ではない。黄金級冒険者と同程度の実力を持つ人間など限られており、いったい誰と戦わせるつもりで運び込んだのかは気にかかる。


最もアッシュの娘であるリーナもリザードマンに関しては何も聞かされていないらしく、彼女が屋敷に戻った時にアッシュにそれとなく尋ねる様に頼もうかと思った時、ここでヒナとモモの声が響く。



「あ〜!!二人とも、先に待ってたの!?」

「ごめんなさい、少し遅れちゃって……」

「あ、ヒナちゃんにモモちゃん……」

「別にそんなに待ってないよ。じゃあ、行こうか」



ヒナとモモと合流し、これで全員が集まったのでナイは3人に商業区を案内してもらう。王都へ訪れてから結構な時が経過しているが、ナイは未だに商業区の事はよく把握しておらず、この際に色々と教えてもらう事にした――

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