第562話 ネズミとの再会
「チュチュッ……」
「うわっ!?鼠!?」
足元から鳴き声が聞こえたナイは振り返ると、そこには灰色の毛皮で覆われた鼠が存在した。驚いたナイは鼠から距離を取ろうとすると、ここで後ろから声を掛けられる。
「ははっ、そんなに驚かなくてもいいだろう。まちがってうちの可愛い鼠を踏むんじゃないよ」
「その声は……ネズミ婆さん!?」
「誰が婆さんだい!!余計な言葉を付け足すな!!」
ナイは背後を振り返ると、そこにはネズミが存在した。彼女はナイの足元に存在した灰鼠に手を伸ばすと、そのまま灰鼠は服の中に隠れる。
突如として現れたネズミにナイは警戒するが、彼女は近くのベンチを指差し、彼女はナイに話があって訪れたらしく、座るように促してきた。
「落ち着きな、今日はあんたと少し話がしたくてこんな所までやってきたんだよ」
「話?」
「まあ、とにかく座りな」
言われるがままにナイはネズミと共にベンチに座ると、彼女の懐に隠れていた灰鼠もベンチに降りると、ここでネズミはサンドイッチを取り出して灰鼠に与えた。
「ほら、よく食べな」
「チュチュッ……」
「……仲が良いんですね」
「当たり前だよ。こいつらと私は運命共同体だからね、仲違いなんかするわけないだろ」
「運命共同体?」
妙な言い回しをするネズミにナイは不思議に思うと、彼女は灰鼠の額に刻まれている魔法陣を指差し、彼女は魔物使いの契約魔法に関して説明する。
「魔物使いが使役する魔獣はね、この契約紋を身体の何処かに刻まれるんだ。そしてこの契約紋は魔物使いが死亡した場合、強制的に魔法陣を刻まれた魔獣はくたばるんだよ」
「え、それじゃあ……」
「あたしが死ねば契約している灰鼠達も死ぬ。だからこいつらと私は運命共同体なのさ」
「チュチュッ」
ネズミが灰鼠の頭を指先で撫でると灰鼠は嬉しそうな表情を浮かべ、その様子を見て本当にナイは灰鼠とネズミが仲が良い事を知る。そして餌を与え終えるとネズミは本題へと入った。
「さてと……今日、あんたの所に来たのは忠告しに来たのさ」
「忠告?」
「あんた、闇ギルドの連中に目を付けられているよ」
「……闇ギルド?」
ナイはネズミの言葉を聞いて疑問を抱き、闇ギルドの事はナイも聞いた事はある。かつて王都へ来たばかりの頃、ナイはバーリという商人の屋敷に忍び込んだ事がある。バーリは闇ギルドと繋がりを持つ人物であり、彼が雇っていた傭兵の中には闇ギルドに所属していた人間も多い。
かつてナイが倒した「疾風のダン」は闇ギルドに所属しており、その強さは不意打ちとはいえ、ナイが一撃で敗北する程だった。再戦した時はナイは奇策を用いて勝利したが、彼の扱う隠密を利用した戦法は非常に厄介だった。
「闇ギルドの中にはバーリと繋がりを持っていた奴等もいる。そいつらはバーリが捕まったせいで大きなシノギを失ったからね。近いうちにあんたの元に闇ギルドから暗殺者が派遣されるかもしれないよ」
「……どうしてそんな事を教えてくれるんですか?」
「あんたならうちの常連客になってくれそうだからね。あたしとしては上客になりえそうな奴に消えて貰いたくはないから伝えただけさ……じゃあ、あたしは行くよ」
「チュチュッ」
灰鼠を自分の懐に戻したネズミはそれだけを言うと立ち去り、そんな彼女にナイは呆気に取られるが、自分が闇ギルドに狙われていると知ってナイは悩む。
(闇ギルドか……暗殺者を送り込むなんてよっぽど嫌われてるんだな)
暗殺者に狙われていると知ってナイは困り、これから皆と遊びに行くつもりだったのに余計な事を知って溜息を吐き出す――
――同時刻、ナイの元を去ったネズミは路地裏の方へ移動すると、ここである人物と遭遇する。それはシャドウの相棒であるイゾウであり、彼はネズミを見ると冷たく睨みつける。
「貴様がネズミか……」
「こいつは驚いたね……どうしてあたしがここにいると分かったんだい」
「惚けるな、尾行されていた事には気づいていたんだろう」
「まあね……それで、あたしに用かい?」
イゾウを前にしてもネズミは動じた様子も見せず、そんな彼女の態度にイゾウは不愉快な表情を浮かべる。この距離ならば確実にイゾウはネズミを殺す事だって出来るが、ここで手を出すのはまずい。
ネズミは自分が殺されない事に自信を持っており、その態度が増々イゾウには気に喰わない。だが、彼女に手を出せば彼の相棒は色々と都合が悪くなるため、殺すわけにはいかない。
「……俺の仕事の邪魔をするなよ」
「あんたの仕事?まさか、闇ギルドに派遣された暗殺者というのはあんたの事かい?」
「さっさと消えろ……殺されたいのか?」
イゾウの言葉にネズミは驚いた表情を浮かべるが、そのままイゾウは立ち去るように促す。そんな彼にネズミは黙って背中を向け、立ち去る。
(こいつは見ものだね、もしもこの男があの坊主と戦うとしたら……見ものだね)
ネズミはこの王都の中でも最強の暗殺者であるイゾウがナイを狙っているとしたら、二人がどのように戦うのか興味はあった。しかし、ここはイゾウに目を付けられない様に引くしかなく、後で自分の従える灰鼠に二人の様子を観察させる事にした――
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