第561話 待ち合わせ

「――ふうっ……ちょっと、早く着きすぎたかな?」



ナイは今日はヒナ達と共に商業区を回る約束をしており、以前に彼はモモと二人で商業区を遊びに行く約束をしていた。だが、話を聞きつけたヒナとリーナが一緒に行きたいというので全員で遊びに行く事にした。


よくよく考えれば女の子3人と自分一人で出かける事などナイにとっては初めての出来事であり、少し緊張してしまう。そのせいか遅刻しないように意識し過ぎて待ち合わせの時間よりもかなり早い時間帯に辿り着いてしまう。



「そういえば前にここでミノタウロスに襲われたんだよな……まあ、もうあんな事は起きないと思うけど」



この王都にはアッシュ公爵が管理する闘技場と呼ばれる場所が存在し、その闘技場には毎日のように魔物と人間が戦っている。魔物は兵士や冒険者が闘技場まで運び込むのだが、以前に運搬中のミノタウロスが脱走してナイと戦った事がある。


今回は商業区へ遊びに行くという理由なのでナイは旋斧や岩砕剣の類は屋敷に置いてきており、腕鉄鋼や反魔の盾すら持ち込んでいない。念のために懐には刺剣を1本だけ隠しているが、他に武器の類といえば魔法腕輪ぐらいしか持っていない。


ちなみに今回はリーナから貰ったペンダントを身に着けており、そのペンダントにはアルから貰った木彫りのお守りも繋いでいた。ナイは二つともなくさない様にしっかりと繋いで起き、首に下げる。



「そういえばあのゴブリン……どうなったんだろう」



王都へ帰還する前に山の中で捕獲した「ゴブリン亜種」の事をナイは思い出し、ゴブリンの要塞で発見されたゴブリン亜種はアッシュの命令によって王都へと運び込まれる。


普段から闘技場を経営しているアッシュは魔物の扱いには長けており、例のゴブリン亜種はしばらくはアッシュが調査を兼ねて管理する事になった。リーナによると闘技場の方で飼育されているらしく、今現在はどうなっているのかも彼女は知らないという。



(あのゴブリン亜種、赤毛熊やコボルトの特徴を継いでいたという事は赤毛熊やコボルトを殺して食べたのかな……)



檻に閉じ込められていたゴブリン亜種は魔物の死骸を喰らう事でその魔物の特徴を吸収している節があり、仮にこの予測が正しければナイが戦ったゴブリン亜種は赤毛熊やコボルトの死骸を喰らった個体の可能性が高い。


コボルトはともかく、赤毛熊のような凶悪な魔獣がゴブリンに敗れて食われるなど考えにくいが、死骸を喰らうだけならば別に弱いゴブリンが戦って倒す必要はない。ホブゴブリンの軍勢ならば赤毛熊が相手でも一方的に倒す事は出来るため、ホブゴブリンを倒した魔物をゴブリン亜種が食して変化したと考えるべきだろう。



(もしも……ゴブリン亜種が赤毛熊よりも強い魔物の肉を喰らっていたらどうなったんだろう)



仮にゴブリン亜種が赤毛熊を越える存在、ミノタウロスなどの魔獣を食した場合はどうなるのかナイは少し気になった。最も赤毛熊を食したゴブリン亜種の戦闘力はせいぜいホブゴブリンよりも少し強い程度であり、本物オリジナルである赤毛熊と比べたら数段劣っていた。


いくら死骸を食べて魔物の特徴を吸収するといっても所詮はゴブリンであるため、強さには限界がある。仮に赤毛熊よりも強い魔物の死骸を食しても赤毛熊より強くなるとは想像できない。



(気にし過ぎかな……)



ゴブリン亜種の事を思い出すとナイは考え込んでしまい、頭を振って久しぶりの休暇を楽しむ事に集中する。リーナ達が訪れるのを待っていると、不意にナイは違和感を覚えた。



(っ……!?)



ナイは異様な気配を感じ取り、気配が感じる方向に視線を向けると、そこには思いがけない光景が広がる。



「もうすぐ到着だ!!だが、焦るなよ……慎重に運ぶんだ!!」

「ううっ……こいつの運搬だけは嫌だったのにな」

「しっ……文句を言うな」



噴水広場の前に兵士達が荷車を運び込み、すぐにナイは彼等がアッシュ公爵の屋敷の私兵だと気付く。彼等は荷車で運んでいるのは檻であり、その中にはナイが今までに見た事がない魔物が入っていた。


檻に閉じ込められた魔物はトカゲと人間が合わさったような魔物であり、全身が緑色の鱗で覆われ、慎重は2メートル近くは存在し、体躯も大きい。両腕と両足には魔法金属製のミスリルで構成された手枷と足枷で拘束されてる。


檻の中で運び込まれる魔物を見てナイは冷や汗を流し、その一方で檻の中に閉じ込められた魔物の方はナイに気付いた様子もない。眠っているのか瞼を閉じたまま動かず、そのまま何事もなく闘技場へ向けて運び込まれていく。



「何だ、今の……?」



ナイは荷車で運び込まれていく魔物の姿を見送り、正体が気になったナイは兵士達に話を聞こうかと思った時、足元に違和感を感じる。

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