第560話 冒険者の誇り
「てめえが何者でどうしてこんな場所で不貞腐れているのかは知らないけどよ、だからって自分の誇りを簡単に捨てようとするんじゃねえよ」
「ぐふっ……あ、あんたに関係ないだろ」
「関係大ありなんだよ、馬鹿がっ!!」
「がはぁっ!?」
ガロは壁際に叩きつけられ、呻き声を漏らす。そんなガロに対してガオウは見下し、彼に淡々と告げた。
「俺とお前は同じ冒険者だ。階級なんて関係ない、今のお前を他の人間に見られたら冒険者の質が落ちたと勘違いされるだろうが。てめえの馬鹿な行為のせいで他の冒険者を巻き込むんじゃねえよ」
「く、くそっ……偉そうに言いやがって」
「なんだ?俺とやる気か?」
いい加減に我慢の限界を迎えたガロは双剣に手を伸ばすが、それに対してガオウは両手の鉤爪を装着する。ガロはガオウの迫力に圧倒され、無意識に身体が震える。
ガオウは正真正銘の黄金級冒険者であり、その実力は確かで並の冒険者とは比較にならない。しかし、ガロもここまで言われて黙ってられるはずがなく、彼はガオウに向けて剣を振りかざす。
「うおおおっ!!」
「何だ?その程度か?」
「うわっ!?」
突っ込んできたガロに対してガオウは身体を横にずらして足元を引っかけると、ガロは転びそうになるがどうにか耐え抜く。そして改めて彼は双剣を構えると、ガロに向けて跳び込む。
「くそがっ!!」
「遅いんだよ」
双剣を振りかざし、不規則な軌道で相手に攻撃を仕掛けようとしたガロだったが、その攻撃に対してガオウは跳躍して回避するのと同時にガロの頭部を踏みつける。
頭を踏みつけられたガロは地面に倒れ、ガオウはそんな彼を見下ろすと、頭を掴んで鉤爪を首筋に構えて告げた。
「お前の負けだ」
「ぐうっ!?」
「これで分かっただろ……俺とお前の格の違いが」
全く手も足も出ず、首筋に鉤爪を構えられたガロは顔色を青ざめ、嫌でも実力差を思い知らされる。そんな彼に対してガオウは鼻で笑い、その場を立ち去ろうとした。
「バッジ、ちゃんと拾って大切にしろよ」
「……畜生っ!!」
去り際のガオウの言葉にガロは地面に拳を叩きつけ、先ほどの攻防で何時の間にか落としていた冒険者のバッジを思い出す。このバッジは冒険者の階級を示す物でもあり、ガロのバッジは一番下の階級の鉄製のバッジである。
バッジを拾い上げたガロは反射的に投げ捨てようとしたが、どうしてもガオウの言葉が忘れられず、結局彼は捨てる事が出来なかった。これを今捨ててしまえば自分は本当に誇りを失う事になるような気がした。
(くそぉっ……!!)
初めて黄金級冒険者と相対し、無様に敗北したことでガロは嫌でも自分の力の無さを思い知る。こんな負け方は初めてであり、ガオウとの実力差に彼は悔しく思う――
――同時刻、ガオウの方は澄ました顔で路地裏から抜け出したが、彼は街道を歩いていると他の人間がガオウを見て驚いた表情を浮かべた。
「ひいっ!?」
「うわぁっ!?」
「んっ……何だ?どうしたんだよ?」
自分の顔を見て悲鳴を上げる人達にガオウは戸惑うが、歩いている人間の一人がガオウの腕を指差す。
「あ、あんた……腹、痛くないのか?」
「腹……?」
ガオウは通行人に指摘されて自分のお腹に視線を向けると、そこには服が切れて脇腹の部分が露わになっており、血が若干に滲んでいた。
自分の腹が少し切られている事にガオウは驚き、路地裏の方角を振り返る。どうやら完璧に躱したつもりだったが、ガロの攻撃はガオウに届いていたらしい。
「あのガキ……中々やるじゃないか」
ガオウは自分が傷つけられたというのに少しだけ嬉しそうな声を上げ、思えばガロは自分と同じ獣人族の剣士であり、見ただけで負けん気が強そうな男だと見抜く。
かつての自分もガロと同じように冒険者の仕事を中々上手くこなせずに不貞腐れていた時期を思い出し、あの時はハマーンに殴りつけられた事を思い出す。
『今のお主に冒険者を語る資格などないわ!!』
まだガオウが未熟だったころ、彼はハマーンに一方的に喧嘩を挑んで返り討ちにされた。そしてハマーンに言われた事を思い出し、彼は一からやり直して遂には黄金級冒険者に昇格した。
「あのガキ……磨けば強くなれるな」
かつての自分とガロを重ね合わせ、少し切られた脇腹を抑えながらもガオウは満足な表情を浮かべ、仕事へと向かう。
――この敗北を期にガロがガオウのように変わるかどうかは誰にも分からない。
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