第544話 剛力の使い手同士の戦い

「ふんっ……お前等、テンの弟子か?なら、その弱さも納得だな」

「えっ?」

「あいつは弱くなった。だからあいつの弟子のお前達が弱いのも当然」

「なっ!?」

「……ふざけた事を言わないで」



流石にルナの言葉にはヒイロもミイナも聞き捨てならず、師であるテンの事を侮辱されて怒らないはずがない。しかし、そんな二人に対してルナは悪びれた態度もせずに肩をすくめる。



「いくら強がってもお前達では私に勝てない。もう分かっただろう、私は行くぞ……テンに伝えろ、これ以上邪魔をすれば許さないとな」

「ま、待ちなさい!!」

「このまま行かせない……!!」



立ち去ろうとするルナにヒイロとミイナは追いかけようとしたが、その前に彼女の前に立ち塞がる人物が存在した。それはナイであり、彼は旋斧を片手にルナと向き合う。



「待ってください」

「何だ、まだ邪魔する気か?諦めろ、お前達程度の力で私に勝てるはずが……」

「いいえ、こっちも本気出していないのに勘違いされたくないだけですから」

「……何だと?」

「ナ、ナイさん?」

「本気を出していなかった……?」



ナイの言葉にはルナだけではなく、他の二人も戸惑う。そんな彼女達に対してナイは旋斧に視線を向け、床に置く。そして改めて背中の岩砕剣に手を伸ばし、武器を構えた。


ルナはナイの行動を見て旋斧が彼の主要の武器ではないかと思ったが、武器を変えた所で自分に勝てると思い込んでいるナイに苛立ちを抱き、改めて戦斧を構える。



「そんな物であたしに勝てると思っているのか!?」

「……はああっ!!」



戦斧を放ったルナに対してナイはテンから教わった「大剣の基礎」を思い返し、今度は全身の筋力を生かして大剣を振り抜く。この時にナイが旋斧ではなく、岩砕剣を利用したのは岩砕剣の方が重量が大きく、旋斧よりも僅かに刀身が大きいのでこちらの方が使い勝手が良かったからだった。


二人の武器が衝突した瞬間、激しい金属音と共に二人の身体が同時に後ろに仰け反り、お互いの両腕が痺れる。ルナは信じられない表情を浮かべ、一方でナイの方も冷や汗を流す。



((重っ……!?))



二人は全く同時に同じ感想を頭に抱き、まさか互いに全力の一撃が弾かれるとは思わなかった。特にルナの方は長い人生を生きてきたが、人間を相手に純粋な腕力で自分の攻撃が弾かれるなど、テン以外の人物では今までにいなかった。あのジャンヌでさえもルナの攻撃を正面から腕力だけで押し返した事はない。



「なっ……そんな馬鹿なっ!!」

「くぅっ!?」



ルナは自分の攻撃が弾かれた事が信じられず、彼女は再び戦斧を振りかざす。それに対してナイも負けずに岩砕剣を振り払い、二人の武器は衝突してまたも弾かれる。


最初の一撃はまぐれではない事をルナは思い知らされ、一方でナイの方もテン以外にここまで自分と渡り合える力を持つ人物は初めてだった。二人はその後も何度か刃を交わすが、腕力は全くの互角でお互いに武器が弾かれてしまう。



「そんな、馬鹿なっ……お前、まさか!?」

「うおおおっ!!」

「くぅっ!?」



ルナは自分と同程度の力を誇るナイに動揺を隠せず、この力の秘密を知るためにルナは正面から彼の攻撃を受け止める。この際にルナは剛力を発動させて腕力を強化し、ナイの攻撃を跳ね返す。



「これならどうだ!?」

「うわぁっ!?」

「ナイさん!!」

「危ない!!」



剛力を発動させてルナは筋力を強化させると、ナイを後方へ吹き飛ばす。その結果、ナイは壁際まで吹っ飛ぶが、即座に壁を足場に利用して剛力を発動させて脚力を強化させる。



「うおおおっ!!」

「うわっ!?」

「や、やった!?」

「倒した……!?」



三角蹴りの要領でナイはルナに向けて跳び込むと、空中から刃を叩き込み、ルナは予想外の一撃に吹き飛ぶ。そのまま彼女は壁に突っ込むかと思われたが、空中に浮かんだ状態でルナは戦斧の柄を床に叩きつけ、衝撃をどうにか殺す。


改めてルナは床に着地すると、ナイに信じられない表情を浮かべて向き合う。その一方でナイの方もルナの異様な腕力の秘密を知り、お互いに同時に語り掛ける。



「まさか……!?」

「お前も……!?」



これまでの攻防から二人はお互いに「剛力」の技能を習得している事を察し、冷や汗を流す。これまでの人生でお互いに剛力の技能を身に付けた者と戦うのは初めての経験であり、動揺を隠しきれない。



「まさか……いや、そういう事か。お前も私と一緒だったんだな」

「一緒?」

「お前、何時からこの力に気付いた?5才か?10才か?」

「えっ……?」



ナイはルナの質問に戸惑い、彼女の場合は生まれた時から「剛力」の技能を身に着けていた。しかし、ナイの場合は状況が違い、彼は自分の意志で剛力を習得した事を告げる。



「何の話か知りませんけど、俺はこの力を身に着けたのは10才の時です」

「身に付けた……剛力を!?そんな馬鹿な……」

「嘘じゃありません……10才ぐらいの頃、ホブゴブリンに襲われて倒した時に剛力の技能が覚えられるようになったから覚えたんです」

「そんな馬鹿な……」



剛力の技能を自らの意志で覚えたというナイにルナは動揺を隠せず、彼女はとても信じられなかった。

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