閑話 聖女騎士団の狂犬
――その頃、王都ではテンはある人物を呼び出すための手紙をしたためていた。だが、彼女は思うように筆が動かず。何度も頭を悩ませる。彼女が手紙を送ろうとしている人物は再結成する聖女騎士団の要に成りうる人物のため、どうしても彼女だけは呼び寄せる必要があった。
「はあっ……」
「いつまでそういしてるつもりだ。もう1時間近くも筆が止まっているぞ」
「あんたね……1時間もあたしの事を眺めていたのかい?」
同期であるレイラが語り掛けると、テンは呆れた表情を浮かべながらも手紙を覗き込む。そんな彼女にレイラは少し呆れながらも自分が代わりに手紙を書く事を提案する。
「お前が書けないというのなら私が書いてもいいんだぞ」
「いや、それだと意味はないんだよ……あいつだけはあたしが呼び出さないと絶対になっとくしないだろうからね」
「……確かにあの子は強い、だけどどうしても呼ばないといけないのか?下手をしたらお前は殺されるかもしれないぞ」
「仕方ないさ……あいつの居場所を奪ったのはあたしだからね」
レイラは真剣な表情を浮かべ、本気でテンの身を案じていた。何しろ彼女が手紙を送り出そうとする人物は聖女騎士団の現役時代ではテンと渡り合えるほどの実力を持ち、一時期はエルマ以上にテンと組んでいた事が多い相手だった。
現役時代の二人は実の姉妹のように仲が良かった。しかし、テンが聖女騎士団を解散させた事を切っ掛けに二人は仲違いし、そして片方は未だに相手を憎み続けている。
「もしもルナが……お前を許さなかったどうする?」
「その時は力ずくで従わせるだけさ」
「そんな事、出来るのか?」
「……無理かもしれないね」
これから呼び出す相手はテンが現役の時代の頃から張り合っていた相手であり、しかも現役を引退してからは実戦に立つ事が少なくなったテンに対し、相手は毎日鍛錬を欠かさず、時には傭兵や冒険者などの職に就いて腕を磨いているという。
もしかしたら今のテンよりも実力は上である可能性が高く、もうテンが手に負える相手ではないかもしれない。それでもテンは諦めるわけには行かず、彼女の宛ての手紙を書き始めた。
――テンが呼び出そうとしている相手は当時の聖女騎士団の中で一番の問題児であり、渾名は「聖女騎士団の狂犬」と恐れられた少女だった。現在は年月も経過したので少女と呼べる年齢ではないが、僅か10才で入団を果たし、11才の頃にはテンと渡り合える力を持つ最強の騎士だった。
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