第542話 ネズミ
「なら……ルナさんの居場所を知っていますか?」
「生憎とそこまでは知らないね。でも、少し時間をくれればその娘が何処に居るのか突き止められるよ。そうだね……30分程度で見つけ出せるよ」
「30分!?そんな馬鹿な……」
「信じるも信じないもあんた達次第さ」
「……どうするの、ナイ?」
ネズミの言葉にヒイロは信じられなかったが、ミイナはナイに尋ねる。ナイはネズミの言葉を信じるべきか悩み、少なくとも彼女は自分達の事もルナに関する詳細な情報も掴んでいたのは事実だった。
悩んだ末にナイは当てもなく探し回るよりもネズミに彼女の居場所を探し出して貰うべきだと判断し、まずは情報の隊かを尋ねる。
「値段は?まさか無料で探し出してくれたりはしないんでしょう?」
「当たり前だね、あたしはこれで生計を立ててるんだからね……でも、そうだね。今回は初めての取引という事で……前払いで金貨1枚でどうだい?」
「き、金貨!?」
「それに前払いって……」
「分かりました」
ヒイロとミイナはネズミの要求に対して不満を抱き、もしも彼女が金貨を受け取って逃げ出してしまったら元も子もない。しかし、すぐにナイはネズミに対して金貨を1枚放り込むと、彼女は驚いた様に受け取る。
「金貨1枚、それで探してくれるんですよね?」
「……あ、ああ、でもそんなにあっさりと渡していいのかい?」
「ナイさん!?本当にこんな人の言葉を信じるんですか!?」
「いくらなんでも怪しすぎる……止めて置いた方が良い」
ナイの行動に他の二人は戸惑い、ネズミの方もあっさりとナイが金貨を渡した事に訝しむが、そんな彼女達に対してナイは告げた。
「大丈夫だよ、もしもこの人が裏切ろうとしたら……その時はこの人を捕まえるだけでいいんだから」
「うっ……!?」
「ナ、ナイ……?」
「……こいつは、噂以上の人物だね」
3人はナイの言葉を聞いた瞬間に背筋が凍り、ナイ本人は別に何もおかしなことを言ったつもりはないが、最後の一言を言い放つ際に発した迫力は凄まじかった。
数々の死闘を乗り越え、より強くなった影響かナイの言葉には重みがあり、もしもネズミが裏切るような真似をすればナイは本当に彼女を捕まえるつもりだろう。そして今のナイならば本当に彼女を捕まえる事が出来る力を持っていた。
(こいつは思っていた以上に大物かもしれないね……)
ネズミは受け取った金貨を見つめ、彼女はため息を吐きながら頭に手を伸ばす。その行動にナイ達は不思議に思うが、ネズミは意識を集中させながら呟く。
「……見つけたよ、どうやらルナという小娘はあの建物の中に隠れているね」
「えっ!?」
「あそこに……?」
「丁度近くに居てくれて助かったよ。あたしの部下が見張っている、今の所は動く様子はないよ」
「どうして……そんな事まで分かるんですか?」
頭を触っただけでネズミはルナが隠れている場所を見抜き、彼女の立て籠もっている建物を指し示す。ナイ達はネズミの言葉に疑問を抱くが、ここで彼女は話題を変える。
「あんた達、どうしてあたしがネズミと名乗っているのか疑問を抱かなかったのかい?」
「え?」
「子供にネズミなんて名前を付ける馬鹿がいるはずないだろう?偽名だよ、偽名。正確に言えば渾名みたいなもんだけどね」
「ネズミが渾名?」
「そう……あたしがネズミと呼ばれる所以はこいつらのお陰さ」
「こいつら?」
ネズミは指を鳴らした瞬間、周囲の建物や路地裏から多数の鼠が出現し、彼女の元に集う。その数は数十匹は存在し、それを見たヒイロは悲鳴を上げてナイに抱きつく。
「ひいいっ!?ネ、ネズミ!?」
「ちょっ……落ち着いて、ヒイロ!?」
「ヒイロは大の鼠嫌い……私もあんまり好きじゃない」
「おいおい、そう言ってやるなよ。こいつらはあたしの可愛い部下さ、あたしが集めている情報はこいつらから教えてもらっているんだよ」
『チュチュッ!!』
大量の鼠を前にネズミは笑顔を浮かべると、彼女の言葉に反応するように鼠たちは一斉に鳴き声を上げた。この時にナイは鼠の額の部分に魔法陣のような紋様が刻まれている事に気付く。
どうやら何らかの手段でネズミは王都に潜む鼠たちを従え、その鼠を利用して情報収集を行っているらしい。彼女が集める情報は全て王都中の鼠が集めてくるらしく、ルナの居場所も彼等から教えてもらったと説明する。
「ルナはあそこの今は誰も住んでいない廃墟に隠れているよ。今の所は逃げ出す様子はないから、急いでいけば間に合うかもね」
「あの建物に……」
「但し、行くときは気を付けな。どうやら様子が普通じゃないからね……下手に刺激すれば襲われる危険性もあるよ」
「……分かりました、ありがとうございます。でも……もしも嘘だったら許しませんからね」
「あ、ああっ……」
ナイはネズミに頭を下げた後、一言だけ忠告しておく。そのナイの迫力にネズミは表情を引きつらせるが、とにかくナイ達はルナが隠れているという廃墟へと向かう。
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