第541話 情報屋
「駄目だ、ここも見当たらない」
「闇雲に探し回っても簡単に見つかるはずがありませんよね……」
「手がかりでもあればよかったのに……」
ナイ達は街中を1時間ほど探し回ったが、手がかりすら掴めず、疲れ果ててベンチに座り込む。3人とも遠征から戻ったばかりで疲れも抜けておらず、休息が必要だった。
「お腹も空きましたし、何処かで食べに行きませんか?」
「賛成、久しぶりに甘い物が食べたい」
「そうだね、なら何処かの店に……何だ、あの人?」
「え、どうかしました?」
何処かの店で食事を取ろうとした時、ナイは不意に視界の端に入った人物に違和感を覚えた。その人物は特に怪しい恰好をしているわけではないのだが、何故かナイの直感が普通の人間ではないと告げる。
最初は気づかなかったが、ナイは歩いている人物の中に全く気配を感じさせない人間が居る事に気付く。恐らくは「隠密」の技能の使い手であり、ナイが気づく事が出来たのはクノが先日教えてくれた「心眼」なる力のお陰だろう。
「あの人、ちょっと追いかけてみる」
「えっ!?ナイさん!?」
「ヒイロ、私達も付いて行く」
ナイは隠密を発動させて街道を歩く人物を怪しみ、その後を追う。ヒイロとミイナも慌ててナイの後を追うと、3人は人気のない街道まで移動する。
「ここは……」
「商業区の裏通りですね……この周辺はよく犯罪者が出没するらしいので気を付けてください」
「ナイ、誰を見つけたの?」
商業区の裏通りと呼ばれる場所に辿り着いたナイは周囲を振り返り、先ほどまで自分が追っていた人物を探す。確かにさっきまで姿を捉えていたのだが、いつの間にかいなくなっていた。
まだ近くに居るはずであり、ナイは姿を探していると路地裏の方から人影が現れる。それはナイが追っていた人物であり、その人物は小さな老婆だった。
「何だい、あんた達……人の事を追い掛け回して」
「えっ……だ、誰ですか!?」
「それはこっちの台詞なんだけどね……」
「ナイ、この人を知っているの?」
「いや……」
音も立てずに現れた老婆にヒイロとミイナは警戒するが、ナイは相手を刺激しない様に気を付けながら話しかけた。
「貴方の後を追いかけてきた事は謝ります。でも、街を歩いている時に貴方の気配が全く感じられなかったから不思議に思ってここまで付いてきました」
「へえ……あたしの隠密に気づいたのかい。あんた、噂通りに只者じゃないね……ナイさん」
「えっ!?どうして名前を……!?」
ナイの名前を老婆が知っている事にヒイロは驚き、ミイナは警戒したように如意斧を掴む。そんな彼女達に対して老婆はパイプを口に咥え、火を灯す。
「あんた達の事も知ってるよ、白狼騎士団のヒイロとミイナだね。あんた達、自分で思っているよりも有名人だよ」
「僕も……?」
「何だい、知らなかったのかい。裏社会ではもうあんたは立派な有名人さ、ミノタウロスを殺し、闘技場で黄金級冒険者に打ち勝った人間の情報が出回らないはずがないだろう?」
どうやら既にナイは王都の裏社会では知らない人間がいない程に有名な存在らしく、既に闘技場に出場した選手の正体もナイだと判明しているらしい。
老婆は裏社会に関りを持つ人物だと確定し、ヒイロとミイナは警戒心を抱く。だが、ナイは今の所は老婆から敵意は感じられず、彼女に尋ねた。
「あの……貴女は何者ですか?」
「それに応える義理はないね……と、言いたい所だけど、あんたはそういえばテンの奴が世話してるんだってね」
「テンさんの事を知ってるんですか?」
「別に友達というわけじゃないけど……まあ、腐れ縁さ」
ナイの言葉に老婆は苦笑いを浮かべ、彼女はパイプから煙を吸い込むと、改めてナイ達と向かい合い、自分の正体を話す。
「あたしの名前はネズミ、この王都の情報屋さ」
「情報屋……?」
「言葉の通りに情報を売買して生計を立てているのさ。この街で起きている出来事で私が知らない事は何一つないよ」
「い、言い切りましたね……」
「それなら、この子の事も知っている?」
情報屋を名乗るネズミという老婆に対してミイナは羊皮紙を差し出し、ルナの似顔絵を見せると彼女は頷く。
「知っているよ。元聖女騎士団の団員のルナだろう」
「えっ!?どうしてそんな事まで……」
「情報屋の情報収集力を舐めるんじゃないよ」
ルナの似顔絵は既に兵士にも行き届いているが、彼女の正体まで知っている人間は限られているはずだった。警備兵も知らないはずの情報をネズミが知っている事にヒイロは動揺するが、事前に言っていた通りにネズミは情報屋として既にルナの情報は仕入れていたらしい。
彼女が怪しい人物なのは確かだが、この状況下では心強く、警備兵さえも知られていない情報を知っているのであれば腕は期待できる。ナイは意を決してネズミにルナの情報を問う。
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