第537話 私は間違っていない!!

「あんたとそこにいるテンさんが昔、何かあったのかは知りませんけど、これはやり過ぎでしょう!?どうしてこんな酷い真似が出来るんですか!?」

「うっ……」

「他の人も、母さんも巻き込んで……貴女、本当にあの伝説の騎士団の一員だったんですか!?聖女騎士団は弱い人間の味方じゃなかったんですか!?」

「……うるさいっ!!」

「うわっ!?」



ルナはエリナの言葉を聞いて我慢できずに腕を振り払い、この時にエリナは尻餅をつく。彼女はその間に戦斧を拾い上げ、駆け出す。突き飛ばされたエリナは追いかけようとしたが、レイラに止められてしまう。



「追いかけても無駄だ、今は好きにさせてやれ」

「でも、あの人!!」

「大丈夫だ、必ず戻ってくる……良くある事だ」

「そうだな……ああやって喧嘩した時は、いつも逃げ出していたな」

「そしていつも時間が経てば戻ってくる……そんな奴だったな」



走り去っていくルナを見ても他の者達は誰一人として追いかけようとせず、彼女が戻ってくると確信していた。しかし、エリナだけは納得は出来ず、どうしてあんな真似をしたルナを放置するのか問い質す。



「でも、あの人はいけない事をしたんですよ!?なら、謝らせるべきでしょう!?」

「いけない事、か」

「確かに喧嘩というのは少しやりすぎたな……だが、悪いのはルナだけではない」

「えっ?」

「そうだろう、テン?」

「……ああ、全部私が悪いと言いたいんだろう」



何時の間にかテンは意識が戻っていたらしく、ランファンの腕の中で彼女は痛そうな表情を浮かべながら、走り去っていくルナの後ろ姿を見送る。


本来ならば他の誰でもなく、自分が追いかけるべきだとテンも理解していた。しかし、追いかけたくとも身体の方が言う事を聞かず、想像以上に痛めつけられた事にため息を吐き出す。



「あいつには本当に悪い事をしたよ……あいつにとって聖女騎士団は唯一の居場所だった。それなのにあたしはその居場所を壊してしまった」

「でも、だからってあんなひどい真似をしていいんですか!?私は許せないっすよ!!」

「あんたの母親を巻き込んだのは悪かったね……けど、あいつの事はあたしに任せな……あいててっ!?」

「無理をするな、身体中の骨に罅が入っているんだぞ」

「まさかあのルナがこれほどの力を身に着けているとはな……」

「もう、私達でも止めるのは難しいぞ」



現在のルナはテンでさえも抑えきれないを身に着けており、もしもまた戦ったとしてもテンでは彼女をどうする事も出来ないかもしれない。しかし、彼女は聖女騎士団には必要不可欠な存在であり、テンは団員達に頼み込む。



「悪いけどあんたら、この怪我が治ったら色々と付き合ってもらうよ」

「全く、仕方のない奴だ……」

「いつまでお前は私達に尻拭いをさせるつもりだ?」

「ふっ……そう虐めるな、友達のためならいくらでも力を貸そう」

「あんたらもたいがい手厳しいね……」



仲間達の言葉にテンは苦笑いを浮かべ、そしてルナを取り押さえるために彼女は仲間達にある頼みごとを行う――






――同時刻、逃げ出したルナは路地裏にて一人で佇み、三角座りの状態で考え込む。彼女は悩み事がある度に人気のない場所に移動し、こうして一人で座り込んで考える癖があった。



「皆で私を悪者扱いして……悪いのは全部、テンのせいなのに」



ルナは自分が間違った事をしたつもりはなく、本を正せば自分がこんなにも苦しんでいるのはテンのせいだと思い込む。しかし、痛めつけられた彼女の姿と巻き込んでしまったイレーネの事を思い出し、本当に自分が間違っていないのか自身が揺らぐ。


王都へルナが戻ってきたのはテンに文句を言うためであり、今更聖女騎士団を再結成しようとする彼女にルナはどうしても許せなかった。騎士団を解散する際、ルナはテンと最後に会った日の事を思い出す。



『テン、どうして……聖女騎士団を解散させるんだ!?』

『……何度も言わせるんじゃないよ。王妃様のいない騎士団に……何の価値があるんだい』

『……馬鹿!!』



王妃が亡くなってから間もない頃、テンは聖女騎士団を解散させる事を団員に伝えた。ルナは聖女騎士団が無くなる事を最後まで反対したが、結局は子供の彼女の言う事は聞きいられず、騎士団は解散する。


騎士団が解散してから十数年間、ルナは当てもなく旅に出た。時には傭兵や冒険者のような仕事にも就いたが、結局は聖女騎士団のような居場所を作る事は出来ず、今では賞金稼ぎのような生活を送っている。


賞金稼ぎとは文字通りに賞金首を指定されている悪党を狩り、それを国の兵士に差し出して金を得る仕事だった。確かな実力がある人間ならば場合によっては傭兵や冒険者よりも稼げるが、その分に悪党から恨みを買う事も多く、危険な仕事だった。

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