第535話 聖女騎士団の問題児

――まだ聖女騎士団が健在だった頃、聖女騎士団の中で最も強い人間は誰かと人々の間ではよく議論が行われていた。一番に名前を上がるのは団長であり、二つの魔剣を扱える王妃ジャンヌだった。実際にジャンヌは強く、彼女こそが王国最強の騎士の予備声も高い。


ならば聖女騎士団の中でに強い騎士の場合、誰が相応しいのかに関しては副団長であるテンと、もう一人だけ名前が上がる人物がいた。それこそがルナである。


彼女は一番最後に聖女騎士団に入団し、しかも恐るべきことに彼女の場合は入団時の年齢は「10才」であった。騎士団の現役の時の彼女の異名は「聖女騎士団の問題児」であり、問題児ばかりの聖女騎士団の中でも一際問題を引き起こしたのは彼女である事は間違いない。




ルナが騎士団に加入した理由は彼女の生まれが関係しており、小髭族として生まれたルナは「剛力」の技能を身に付けた状態で誕生する。剛力は筋力を強化する技能なのだが、彼女の場合はこの剛力を上手く操作出来ず、小さい頃からよく問題を起こしていた。




最初に問題を起こしたのは赤ん坊の時であり、彼女は生まれてから数か月で両親から買ってもらった玩具を全て壊してしまう。しかも年齢を重ねるごとに彼女の力は強まり、どんどんと問題を起こす。


5才の頃には既に大人と同程度の力を有しており、同世代の子供達と遊んでいる時にふざけて突き飛ばしただけで大怪我を負わせてしまった事もある。そのせいで彼女は周囲から孤立し、実の両親すらも不気味に思われる。


彼女が身に着けていた技能自体は素晴らしく、力を制御できるようになれば普通の生活も出来るはずだった。だが、子供の頃の彼女は自分の技能を上手く操作する術が分からず、結局は8才の時に家を飛び出してしまう。




その後の彼女は誰の力も借りずに一人で生きていく事を決め、山奥に暮らすようになる。生き残るためには時には山賊紛いの行動も行い、商団を襲っては荷物を奪ったり、時には野生の魔物を狩って食していた。


そんな生活を送っていたある日、彼女の噂を聞きつけてジャンヌとテンが訪れた。最初は見知らぬ人間に警戒したルナだったが、彼女は初めて自分よりも強い存在と出会い、敗北を味わう。



『貴方の才能は決して貴方を苦しめるために生まれた力じゃないわ。貴方は恵まれた才能を持っている、それを理解していないだけよ』

『恵まれた才能……?こんな力の何処が恵まれているの?』

『でも、その才能のお陰で貴方は今日まで生き延びられたのよ』

『あたしたちと一緒に来るかい?あんたみたいな奴は腐る程いるよ』



ジャンヌとテンの言葉を聞いてルナは聖女騎士団に加入し、この時点の彼女はまだ10才だった。あまりにも年齢が若すぎるので最初は他の団員からも反対されたが、彼女は入団直後から功績を上げる。



『うがぁあああっ!!』

『ひいいっ!?』

『ちょ、やり過ぎだよ!!うちは無意味な殺しはご法度なんだよ!!』

『ふうっ、ふうっ……!!』



最初の頃はテンの元でルナは仕事を行い、王国内の悪党を相手にその力を遺憾なく発揮させた。そして仕事を繰り返していくうちに自分の「剛力」を上手く制御できるようになり、普通の人間の生活も遅れる様になった。



『貴方達は頭の方も鍛えないと駄目ね……まずは文字の読み書きから学びましょうか』

『いや、姐さん……あたしは文字ぐらいは読めるよ』

『テンの文字、汚い!!全然読めない!!』

『ルナの言う通りよ、貴方はまずは文字を書く練習をしなさい』

『マジかよ……』

『しししっ……』



テンとルナは力仕事だけではなく、時にはジャンヌの指導で勉強を行う。仕事を行いながらルナは一般常識も学び、騎士として成長していく。


聖女騎士団はルナにとっては自分を差別しない人たちばかりであり、他の騎士達も彼女が一番幼いという事で色々と可愛がってくれた。その事がルナにとっては嬉しく、彼女にとって聖女騎士団は本当の家族のような存在だった。





――だが、そんな家族が崩壊したのはルナが入団してから1年後だった。彼女は11才を迎えた時、突如として王妃ジャンヌは死亡する。



『嘘だ!!王妃様が死ぬはずがない!!』

『……死んだんだよ、あの人は!!』



ルナはジャンヌの死を信じなかったが、普段は滅多に泣かないテンは大粒の涙を流しながら彼女に怒鳴りつけると、ルナは本当にジャンヌが死んだ事を悟る。彼女にとてはジャンヌは母親同然の人間であり、それだけに衝撃を隠せない。


その後、聖女騎士団は解散する形となり、まだ幼いルナは結局は他の騎士団に入る事も許されず、親元に返されそうになった。しかし、彼女はそれを拒否して傭兵として生きる道を決める。


皮肉にもジャンヌから学んだ知識が役立ち、彼女は傭兵としても立派に生きてきた。しかし、王妃の死後から十数年後にテンからの手紙が届いた時、彼女は怒りを抑えきれずにテンの元へ殴り込みに来た――

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