王都 騎士団編
第534話 集う騎士達
――ゴブリンキングの討伐のために飛行船が向かってから数日後、テンの元には聖女騎士団の元団員達が集まってきていた。その人数は20名を超え、再会を喜び合う。
「久しぶりだね、テン」
「イレーネ、まさかあんたも来てくれるとは思わなかったよ。けど、その怪我……どうしたんだい?」
「ちょっと魔物にやられてね……」
テンの元に現れたのは右腕に木造製の義手を取り付けた森人族の女性が訪れ、彼女は現役の時はあのエルマと張り合う程の優秀な射手だった。しかし、現在の彼女は魔物によって片腕を失い、現在は地元に戻って射手の育成に集中しているという。
「折角、騎士団が復活したというのにこの腕だと役に立てないからね……その代わり、あたしの娘を連れて来てやったよ」
「うぃっす!!どうも、初めまして!!エリナと言います!!」
「娘!?あんた、娘がいたのかい!?あの男嫌いで有名だったあんたが……」
「まあ、ちょっと色々とあってね……」
イレーネは自分の娘をテンの元へ連れ込み、自分の代わりに彼女を聖女騎士団に入れるように推薦する。娘も弓矢を扱うらしく、既に腕前の方は母親のイレーネにも並ぶ事を説明してくれた。
「こいつの腕は本物だよ。若い頃のあたしよりも視力が良くて狙撃の腕も里一番さ。エリナ、これからあんたが世話になる人だよ。ちゃんと挨拶しな」
「どうも、初めまして!!エリナと申します!!弓の腕だけなら誰にも負けない自信はあります!!」
「へえ、そいつは嬉しいね。優秀な射手が居てくれるだけで心強いよ」
「ありがとうございます!!」
エリナという少女は年齢はモモやヒナと同じぐらいであり、容姿に関しても森人族の特徴である金髪碧眼であり、体型の方は無駄な肉が一切ない鍛えられた身体つきだった。
昔の聖女騎士団にはエルマやイレーネという優秀な射手が二人も居てくれたお陰で色々と助かり、この二人は当時は王国内でも1、2を争う射手だと言われていた。そんなイレーネが自分と同じ腕前と誇るぐらいの娘が加入してくれるのであればテンも文句はない。だが、団長としては一応は実力を確かめなければならない。
「近いうち、あんたの弓の腕前を見せてもらうよ」
「うぃっす!!頑張ります!!」
「テン……すまない、この子は私よりも父親に似ていてな。変な話し方なのは許してくれ」
「ははは、別にそんな事は気にしないよ。ところであんたはどうするんだい?」
「私は里へ帰るよ。長から一番の弓の使い手を森の外に出した事に怒られてね……まあ、時々は顔を見せにくるよ。次に来るのは10年後くらいでいいかい?」
「森人族の基準で来るんじゃないよ……」
森人族は人間よりも長寿であるため、森に長く暮らしている森人族と普通の人間の間では時間の感覚が異なる。最も、そのお陰でイレーネに関しては他の団員と違い、テンが聖女騎士団を再結成するという話をしても怒ったりはしなかった。
イレーネの感覚では聖女騎士団の解散など少し前の出来事のような感覚であり、彼女は再結成の話を聞いた時はテンが思い直してくれた思って素直に喜んでいた。最も他の団員はテンの提案に対して今だにわだかまりを残している者も多く、その内の一人が彼女の元へ訪れる。
「……ふん、お前が団長だと?お前如きに王妃様の代わりが務まると思っているのか?」
「ルナ……あんたも来てくれたのかい」
「勘違いするな、私はお前に文句を言いに来ただけだ」
テンの前に現れたのは身長が140センチ程度の少女であり、彼女は身の丈に合わない戦斧を背中に背負っていた。外見は12、13才程度の少女にしか見えないが、そんな彼女を見てエリナは声を掛ける。
「あれ?誰っすか、このちびっ子?お母さんとはぐれたんすか?」
「ば、馬鹿!!そいつは小髭族なんだよ、小さいのは別に子供というわけじゃ……」
「小さい、だと……!?」
「ちょ、落ち着きなっ!!」
ルナと呼ばれた少女のような外見をした女性は自分の事を「ちびっ子」や「小さい」と告げたエリナとイレーネに対し、背中に抱えていた戦斧に手を伸ばす。それを見たテンは咄嗟に退魔刀を手にすると、ルナの前に出た。
「落ち着きな、ルナ!!」
「誰の身長が小さいってぇえええっ!!」
「へっ?」
「エリナ、下がりな!!」
豹変したルナは戦斧を振りかざすと、エリナへ目掛けて振り下ろす。その光景を見たエリナは呆気に取られた表情を浮かべるが、咄嗟にイレーナが彼女を引き寄せ、テンは退魔刀で戦斧を受け止める。
現役を引退して長いとはいえ、テンは未だに王国内でも指折りの実力の持つ剣士だが、ルナの戦斧を受け止めた瞬間に彼女は吹き飛ぶ。剛剣を得意とするテンでさえもルナの攻撃は受け止め切れず、彼女は地面に背中を強打した。
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