閑話 ダイダラボッチとムサシノ
※すいません!!新章に入る前に書き残した閑話を投稿します!!
――飛行船が王都へ帰還する途中、クノはシノビと共にゴブリンの軍勢が築き上げた要塞を見下ろす。樽型爆弾によって跡形もなく吹き飛ぶ、この際に大穴が瓦礫に塞がる光景も確認した。
大穴が塞がる際、シノビとクノは黙って見つめ、これでもう二人はダイダラボッチを仕留める機会は失われた。だが、二人の希望はまだ潰えてはいない。
「……兄者、この地はやはり」
「ああ……ムサシノだ」
クノとシノビは飛行船から山を見下ろした際、ある事に気付く。シノビは懐から巻物を取り出すと、それを広げて地図と飛行船の上空から見下ろした光景を確認する。
シノビが取り出したのは二人の家系に伝わる代物であり、まだ和国が健在だったころに作り出された地図であった。巻物に記された地図と飛行船の上空から確認した地形を照らし合わせると、二人はこの場所が和国の「ムサシノ」と呼ばれた地である事を確認した。
地図に記されているムサシノは偶然にも地球の「武蔵野」と同じ形をしており、地図によると昔はこの場所に山などは存在しなかった。しかし、数百年の時を経て何時の間にかこの場所には山が出来上がっていた。
「元々のダイダラボッチとは山を動かし、あるいは作り出す巨人だと伝えられている……しかし、この世界のダイダラボッチにそんな力があるはずはない」
「ならばどうして奴は埋まっていたのでござるか?」
「恐らくは何者かがダイダラボッチを封じ込め、そして奴の周りに土を盛り上げて山を築いた……という事だろう」
「そ、そんな事が可能なのでござるか?」
「普通の方法ならば不可能だ。だが、魔法使いならばあるいは……」
ダイダラボッチは姿を消したと伝えられているが、真実は何者かがダイダラボッチを地中に封じ込め、その後に山を築いたとしか考えられない。勿論、地球ではそんな事は不可能だろうが、この世界には魔法という便利な力が存在する。
ムサシノの地でダイダラボッチは誕生し、そして何者かの手によってムサシノの地でダイダラボッチは地中深くに封じ込められた。その後、山を築いてダイダラボッチの存在を知られない様にしたのだろうが、この時代のゴブリンキングとゴブリン達は明らかにダイダラボッチの存在に気付いていた。
「ゴブリン共がこの地に集まったのは偶然ではない、そしてゴブリンキングが誕生したのもこの地である事は間違いない……この地にはまだ何か秘密がある」
「しかし、それを突き止めるのは不可能でござるよ」
「そうだ……この地が王国の領地である限り、我々には手は出せない。だが、何時の日かこの地を取り戻した時、我々はムサシノの秘密を探る事が出来る」
「それまでは王国に従うしかないのでござるか……」
「我慢だ、何時の日か必ず……俺達は本当の故郷を取り戻せる」
シノビの言葉にクノは頷き、その一方で彼女はダイダラボッチの胸元に突き刺さっていた巨大な剣の建造物が気になった。
「兄者はダイダラボッチに刺さっていたという巨大な剣に心当たりはないのでござるか?」
「……ない、そもそも建造物のような大きさの剣を人が打てる物ではない」
「では一体誰があんな物を……」
「さあな……だが、魔剣の中には形を変化させる物もある。お前が見つけた剣もそれと同じ類の魔剣かもしれんな」
「むむむっ……」
シノビの言葉にクノは考え込み、彼女はナイに視線を向ける。ナイが所有する旋斧も元々は斧と大して変わらない大きさだったが、火竜を倒した時に剣が大剣へと変化した。
この世界では成長する魔剣も実在する以上、シノビの予想は間違ってはいないかもしれない。実際にダイダラボッチの胸元に突き刺さった魔剣は旋斧のように魔力を吸収する性質を持ち合わせていた。
ナイが所有する旋斧の場合は聖属性の魔力を吸い上げる事で刃を修復し、場合によっては刃の形状が変化する。もしかしたらダイダラボッチに突き刺さっていた巨大な剣の建造物も旋斧と同じ能力を持っており、数百年の時を費やして成長して巨大化した可能性もある。
(あの剣が本当にナイ殿の武器と同じ性能を持つのならばナイ殿の旋斧も巨大化するのでござるか……?)
あまりにも大きくなり過ぎた旋斧をナイが引きずる姿を想像してクノは不覚にも笑ってしまい、その様子を見てシノビは首を傾げた――
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