第533話 要塞の破壊と封印

「――この場所に誰も来ることがないように封じる。要塞を破壊し、この穴を埋め直すぞ」




その彼の言葉を聞いた瞬間、全員が安堵の表情を浮かべた。もしも彼がダイダラボッチを討伐すると言い出した場合、その時はドリスとリンも止めるつもりだった。


の強さを知っている故に他の者達もアッシュが無謀な判断を下さなかった事に安心する。何しろ地中に埋まっているダイダラボッチの大きさは先日のゴブリンキングの比ではなく、もしも戦闘になった場合は勝てる保証はない。


クノもアッシュの言葉を聞いて安心した表情を浮かべ、先祖の恨みを晴らす機会を失った事になるが、勝ち目のない戦をするほど彼女も愚かではない。



「ですが、アッシュ公爵……この穴を埋め直すには相当な時間が掛かりますわ。それこそ、何年かかるか……」

「大丈夫だ、イリア魔導士が用意していたあれを使う。丁度使い道に困っていた所だからな」

「あれ、とは?一体何の事ですの?」

「あ、もしかして……」



アッシュの言葉を聞いてドリスは首を傾げるが、ナイの方は心当たりがあった――






――飛行船に闇ギルドの暗殺者が乗り込んだ際、彼等は船を爆破するために火属性の魔石の粉末を大量に用意していた。イリアはそれを利用し、樽型爆弾なる兵器を作り出す。


この樽型爆弾は火属性の魔石の粉末を発火させて爆発を引き起こすため、魔石の効力が切れる前に使い切らなければならない。製作からかなりの時間が経過したので威力は落ちると思われるが、街に戻った後に新しい魔石を用意する。


この樽型爆弾を利用してゴブリンが築いた要塞ごと破壊し、大穴を崩して地面に埋めるのがアッシュの作戦であった。また、この場所には誰も近づけない様に危険区域として指定し、後々に王国の兵士を派遣して監視体制を敷く事が決まった。



「まさか私の樽型爆弾をこんな風に使うとは思いませんでしたね。まあ、使い道が残ってて良かったですけど」

「そんな事よりも本当にこんな物であの要塞を吹き飛ばす事が出来るのか?」

「舐めないでください、新しく樽型爆弾も用意したんですよ。この程度の要塞何て跡形もなく吹き飛ばせますよ。まあ、そのせいで結構な費用は掛かりましたが……」



この世界の魔石は決して安くはなく、今回の遠征だけで飛行船を動かすだけでも相当な魔石を消費し、更に要塞を破壊するだけの樽型爆弾を用意するのにかなりの費用が掛かった。しかし、結果としては飛行船のお陰でリノ王子の救援は成功し、ゴブリンキングの討伐を果たす事は出来た。


ゴブリンキングを放置すれば勢力を増やし、いずれは他の街も襲われていた可能性もある。そう考えれば今回の飛行船の費用は痛手はあったが間違った判断ではない。そしてダイダラボッチという隠された脅威を発見する事が出来た。



「これでよし、後は爆発を起動させるだけですが……エルマさん、お願いしますよ」

「はい……飛行船から撃ちぬけばいいんですね?」

「そういう事です。ひとつ爆発すればその余波で他の樽型爆弾も起動して連鎖しますから、無理に全ての樽を狙い撃つ必要はありませんよ」



要塞内に樽型爆弾を設置し、事前に計算した上で配置を行った後、飛行船からエルマが魔弓術を利用して樽型爆弾を起動させる。飛行船の上から彼女は火矢を扱い、樽型爆弾を射抜けば爆発が連鎖して要塞を吹き飛ばし、要塞内の大穴も崩壊して再びダイダラボッチは地中へ埋まる。


今回の作戦には飛行船を飛ばす必要があり、やっと飛行船を動かせるだけの魔石を用意する事は出来たが、王都へ戻る前にゴブリンの築き上げた要塞の上空まで移動を行う。この時にナイは空から自分が訪れていた山を見下ろし、不思議な感覚を覚える。



(空から見るとこんなに小さく見えるんだ……)



ナイ達は上空から要塞を見下ろすと、この際にエルマは船首に立ち、弓矢を構えた。彼女は意識を集中させるように目を閉じると、魔弓術を利用して火矢を放つ。



「はあっ!!」



飛行船から放たれた火矢が次々と地上へ向けて降下し、要塞の各地に配置された樽型爆弾に衝突した。その結果、樽型爆弾に収められていた火属性の魔石の粉末が反応し、爆発を引き起こす。


一つ一つが建物を崩壊させるほどの凄まじい威力を誇り、爆炎が周囲に広がって他の樽型爆弾も連鎖的に爆発を起こす。イリアの言う通りに要塞は跡形もなく吹き飛び、ダイダラボッチが眠る大穴も爆発の影響で岩壁が崩れ去り、無数の瓦礫が降り注いで塞がれてしまう。




多くの謎を残しながらもダイダラボッチが眠る場所は瓦礫によって封じられ、その光景をナイ達は飛行船から見下ろすと、アッシュは改めて全員に振り返って告げる。



「任務終了……これより、我々は王都へ帰還する!!」

『はっ!!』



こうして討伐隊は任務を成功させ、王都へ向けて飛行船は動き出した――





※次から新章に入ります。

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