閑話 〈その頃の飛行船では〉

「あれ?あれれ……何処に行ったんだろう?」

「モモ、どうかしたの?」

「あ、ヒナちゃん……」



煌魔石の製作のためにモモは身体を休ませていると、彼女はある物がない事に気付く。この時に偶然にもヒナは彼女の部屋に食事を運ぶために訪れた。



「何かなくなったの?一緒に探してあげるわよ」

「う〜ん……えっとね、実はイリアちゃんから貰った魔石がなくなってるの?」

「え、魔石……?」



モモが何を探しているのかをヒナは尋ねると、彼女は困った風に失くした物を告げる。しかし、魔石を失くしたと言われてヒナは反応に困る。


煌魔石の製作のためにモモはイリアから魔力が既に失われた魔石を受け取り、それを完成させてナイに渡した事はヒナも知っている。それなのに魔石を失くしたという彼女にどういう意味なのかを尋ねると、モモは製作の途中で一度失敗した事を告げた。



「実はね、最初に貰った魔石に魔力を流し込んでいる時、失敗して壊れちゃったの。それで新しくイリアちゃんから新しい魔石を貰ってハマーンさんにまた魔術痕を刻んで貰ったけど……最初に壊した魔石が失くなってるの」

「ええっ!?それ、大丈夫なの?」

「う、うん。イリアちゃんに聞いたら罅割れた魔石は魔力を込めてもすぐに漏れると言ってたけど……でも、確かに机の上に置いていたのに失くなってるの」

「困ったわね……誰かが持っていたのかしら?でも、失敗した魔石を持っていくなんていったい誰が……」

「どうしよう……イリアちゃんに相談するべきかな?」

「まあ、そうね……私の方から謝っておくから安心しなさい。きっと、怒ったりはしないわよ」



煌魔石の製作は難しく、失敗する事はよくある事だとイリアは言っていたため、そんなに怒られる事はないだろうと思ってヒナはモモの代わりに彼女に謝っておくことにした。


モモを休ませた後、ヒナはイリアが使っている部屋へ向かう途中、床に奇妙な物が落ちている事に気付いた。それはガラスの破片のような物であり、それを拾い上げたヒナは疑問を抱く。



「なにかしら、これ……?」



破片を拾い上げたヒナは不思議そうに覗き込み、少し力を込めるだけで簡単に破片は砕け散ってしまう。その様子を見てヒナは驚き、正体に気付く。



(これってもしかして、魔石の欠片!?)



魔石は何故か蓄積された魔力を失うと非常に壊れやすくなり、子供でも簡単に壊せるほどに脆くなる。ヒナが拾い上げたガラスの破片はもしかしたら魔石の欠片の可能性があり、彼女はイリアの部屋の近くに落ちている事に疑問を抱いた。


どうして魔石の破片がイリアの部屋の前に落ちていたのか、先ほどのモモの部屋からなくなった魔力を注入するのに失敗した煌魔石の事を思い出し、まさかイリアがモモの部屋から失敗した煌魔石を盗み出したのではないかと考える。



(どうしてイリアさんがそんな事を……)



モモのために煌魔石の製作に手伝った彼女が無断でモモの部屋に入り、失敗した煌魔石を盗み出したなど普通ならばあり得ない。しかし、状況的にそうとしか考えられず、ヒナは恐る恐るイリアの部屋に近付く。


扉に聞き耳を立てて中に物音が聞こえる事からイリアが部屋の中にいるのは間違いなく、意を決してヒナはゆっくりと扉の隙間を開く。この時に彼女は気づかれない様に慎重に扉の鍵穴から部屋の様子を伺おうとした時、瞳があった。



『何してるんですか?』

「うひゃあっ!?」



扉を覗こうとした瞬間に部屋の中のイリアが同じように鍵穴を覗き込んでい事が発覚し、ヒナは悲鳴を上げる。そして扉が開かれるとイリアが現れ、彼女を見下ろす。



「人の部屋を覗くなんていい趣味してますね、ヒナさん」

「あ、いや、その……」

「そうそう、良い忘れてましたけどモモさんが寝ている時に部屋に入らせて貰いました。回収し忘れた物があったのでついでに持って帰りましたよ」

「えっ……?」



イリアの右手には最初にモモが煌魔石を作ろうとした時に彼女から受け取ったはずの魔石が存在し、現在は完全に色が失われ、表面に亀裂が走っていた。


あっさりとイリアがモモの部屋に入り込み、失敗した煌魔石を回収した事を伝えた事にヒナは戸惑うが、イリアは説明を続ける。



「魔力が出ている魔石ほど危険な物はありませんからね。放置していればあの部屋に魔力が充満して大変な事になっていたかもしれません。だから回収させてもらいましたよ」

「そ、そうだったんですか……」

「どうしました?そんなに怯えて……ああ、私が盗んだと思ったんですか?言っておきますけど、確かに煌魔石は価値のある代物だといっても製作に失敗した煌魔石には価値はありませんからね」

「あ、はい……その、すいませんでした」



ヒナは愛想笑いを浮かべてそそくさと立ち去り、その様子をイリアは見送ると、彼女はヒナに聞こえない程度の声で呟く。



「そう、価値はない。の人間が作った物ならね」



その言葉はヒナの耳には届かなかったが、イリアはそのまま部屋へと戻った――

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