第526話 大乱戦
「ビャク、行け!!」
「ウォンッ!!」
「クロ、頼むでござる!!」
「ガウウッ!!」
「やっと出番かっ!!」
『うわぁっ!?』
橋の上の王国騎士達をすり抜け、真っ先に要塞内部に駆けつけたのはビャクに乗り込んだナイ、クロに乗り込んだクノ、そして討伐隊の中では唯一の獣人族であるガオウだった。
白狼種であるビャクと黒狼種のクロの移動速度は魔獣種の中でも最速といっても過言ではなく、ガオウの場合は獣人族は運動能力が高く、人間よりも素早く動ける。しかも彼の場合はナイと同じように「俊足」の技能を所有している。
ドリスにホブゴブリンの軍団が襲い掛かろうとした寸前、ナイは両手で大剣を握りしめ、クノは自分の指と意図で繋げたクナイを取り出し、ガオウは両手の鉤爪を放つ。
「だああっ!!」
「おらぁっ!!」
「投っ!!」
『グギャアアアッ!?』
ホブゴブリンの軍勢は吹き飛び、切り裂かれ、急所を突かれる。その結果、ドリスは襲われずに済み、絶体絶命の危機を乗り越えた。
「ドリスさん、大丈夫ですか!?」
「えっ、ええっ……た、助かりましたわ」
「よし、我々も中へ入るぞ!!リン、橋の守護はお前に任せる!!」
「……仕方ない、我が部隊は橋の守護に当たれ!!」
『はっ!!』
橋を破壊された要塞からの脱出手段を失い、かりに先ほどのように魔石を投げつけられたときに対処できるのはリンだけのため、彼女は自分の部隊と共に橋の守護を請け負う。
他の部隊は要塞内へと乗り込み、ホブゴブリンの残党と戦闘を開始した。どうやら要塞ナイにはまだ100体近くのホブゴブリンが待ち伏せしていたらしく、彼等は武器を手にして襲い掛かってきた。
「グギィッ!!」
「グギギッ!!」
「はっ、ぞろぞろと出てきやがって!!やっぱり隠れてやがったな!!」
「油断しない方が良いでござる!!街では見かけなかった敵もいるかもしれないでござる!!」
ホブゴブリンの軍団と討伐隊は激しい攻防を繰り広げ、この時にホブゴブリン達の中には檻を乗せた荷車を運ぶ存在が含まれ、彼等は檻の中に閉じ込めていた魔獣を放つ。
「グギィッ!!」
『ガアアアアッ!!』
「ファングにコボルトだと!?こんな奴等まで従えていたのか!!」
檻の中に閉じ込められていたのは十数匹のファングと、数体のコボルトが解き放たれる。魔獣達はホブゴブリンに加勢して討伐隊へと襲い掛かろうとしたが、ここでリーナとアッシュがお互いに武器を振りかざす。
「せいやぁっ!!」
「ふんっ!!」
『ギャインッ!?』
リーナは目にも止まらぬ槍捌きでファングの頭部を貫き、アッシュは薙刀を一振りしただけで数匹のファングを一度に切り裂く。その間にも回復薬で体力を回復したドリスは真紅を振りかざし、お得意の魔法槍を発動させる。
「爆槍!!」
『グギャアアアッ!?』
派手な爆発が生じて一気に10体近くのホブゴブリンが吹き飛び、形成は一気に討伐隊が優位に立つ。だが、ここでホブゴブリンの一部が動き出し、今度は別の檻に閉じ込めている魔獣を解放した。
ファングとコボルト以外に閉じ込めていた最後の魔獣を見た瞬間、ナイは目を見開く。それは全身が赤毛の毛皮に覆われ、ホブゴブリンの倍近くの体躯を誇る巨大熊であり、それを見た他の騎士達は驚愕の声を上げる。
「あ、赤毛熊だぁっ!!」
「ど、どうしてこんな場所に!?」
「ガアアアアッ!!」
檻から現れたのは赤毛熊であり、ナイがかつて倒した赤毛熊よりも体躯は大きい。その姿を見ただけで騎士達は怯み、ガオウは舌打ちした。
「ちっ、こんな時に面倒な奴が……退け、俺が仕留めてやる!!」
「……待ってください」
「ああっ!?何だよこんな時、にっ……?」
ガオウが赤毛熊を仕留めるために駆け出そうとした時、誰かが彼を止めた。ガオウは苛立ちながら振り返ると、そこには今までに見た事がない表情をしたナイが立っていた。
ナイはこれまでにない程の迫力を放ち、その気迫は味方さえも怖気づく程だった。ガオウはナイの変化に戸惑うが、ナイの視線は赤毛熊を捉え、両手の大剣を手放す。
「えっ、ナイ君!?」
「はっ!?おい、何して……」
「おぉおおおおおっ!!」
自分の武器を手放して駆け出したナイを見て近くに居たリーナとガオウは驚愕の表情を浮かべるが、ナイは雄たけびを上げながら赤毛熊の元へ近づく。
ナイは無意識に強化術を発動させ、肉体の限界まで身体能力を上昇させると、赤毛熊に目掛けて跳躍する。赤毛熊は檻を出た瞬間に突っ込んできたナイを見て驚愕の表情を浮かべるが、そんな赤毛熊の顔面にナイは拳を放つ。
「くたばれぇっ!!」
「ブフゥッ――!?」
赤毛熊の顔面が陥没する程の強烈な一撃が叩き込まれ、そのまま赤毛熊は地面に倒れ込む。その光景を見ていたホブゴブリンや討伐隊の面子は呆気に取られ、戦闘が止まってしまう。
「はあっ、はっ……!!」
ナイは拳にこびり付いた血に視線を向け、倒れ込んだ赤毛熊を見つめる。ナイの全力の一撃を受けて赤毛熊の顔面は凹み、事切れたのか全く動かなくなった――
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