第525話 残党
「では門は私が開きますわ!!皆さん、離れてて!!」
ドリスは自分の傍から人を離れさせると、彼女は真紅を握りしめた状態で橋の前まで移動を行う。この時にナイは彼女が何をするつもりなのかと不思議に思うと、ドリスは両手で真紅を掴み、意識を集中させる。
真紅はランス型の魔槍であり、ヒイロの魔剣「烈火」と同様に火属性の魔力を操る。しかし、彼女の真紅の場合は単純に武器に炎を纏うだけではなく、火属性の魔力を柄の部分から放出させる機能も持っていた。
「爆!!」
「うわっ!?」
「な、何でござる!?」
「巻き込まれるぞ、もっと離れておけ」
ドリスが声を張り上げた瞬間、彼女の掴む真紅の柄の部分に装着された赤色の魔石から火属性の魔力が放出される。まるでロケット噴射の如く放出される火属性の魔力に他の者は巻き込まれない様に距離を取ると、ドリスは真紅を支えた状態で駆け出す。
「速!!」
「速いっ!?」
「何て速度だ、おい!?」
「伏せろっ!!」
ロケット噴射の如く放たれる火属性の魔力を利用し、推進力を得たドリスは正面から要塞の門に突っ込むと、彼女は刃先を突き出す。
「突!!」
真紅が門に衝突した瞬間、あまりの凄まじい威力に門は破壊され、派手に吹き飛ぶ。その威力を見たナイ達は驚き、その一方でリンは不機嫌そうに呟く。
「相変わらずふざけた威力だ……だが、門は破壊出来たか」
「皆さん!!門が開きましたわよ!!」
開いた、というよりは破壊した門の残骸の上からドリスは手を振り、中に入るように促す。彼女の技を見てナイ達は冷や汗を流し、これほどの威力ならばゴブリンキング戦でもドリスならば倒せたのではないかと思う。
最も先ほどの攻撃は彼女の肉体の負担は大きいらしく、ドリスは全身から汗を流し、立っていられなくなったのか膝を着く。その様子を見て他の者達は橋を通り過ぎて要塞を渡ろうとした。
「ドリス副団長!!ご無事ですか!?」
「すぐにそちらに参ります!!」
「え、ええっ……流石にちょっと疲れましたわ」
真っ先に駆けつけたのはドリスに仕える黒狼騎士団の面々であり彼等は橋を駆け抜けて彼女と合流しようとした。しかし、この時にクノは橋を通ろうとした者達に声を掛ける。
「むっ!?待つでござる、堀の方から何やら気配を感じるでござる!!」
「何!?」
「何だと!?」
クノの言葉を聞いて全員が橋の下に視線を向けると、そこには岩壁に張り付いているホブゴブリンの姿が存在し、その手元には火属性の魔石と松明を縄で括り付けた道具を持っていた。
「グギィッ!!」
「なっ!?まさか……」
「橋を破壊するつもりか!?」
岩壁に張り付いて隠れていたホブゴブリンは全身に泥を塗って偽装していたらしく、クノでさえも堀の近くまで移動しなければ気付く事が出来なかった。ホブゴブリンは松明に顔を近づけ、牙を利用して火花を散らすと、松明に火を灯す。
仮に松明が燃えて縄で括り付けている魔石の部分に火が到達した場合、火属性の魔力が反応して爆発を引き起こす。そうなれば橋の崩壊は免れず、慌てて橋の下に立っていた者達は離れようとした。
「皆さん、早く引き返して!?」
「う、うわぁあああっ!!」
「駄目だ、間に合わない!?」
「グギィッ!!」
遂にホブゴブリンは松明の火が魔石に届く寸前、橋に向けて魔石を放り込もうとした。それを見ていたナイは刺剣を取り出し、距離は離れているが風属性の魔石を利用してホブゴブリンを仕留めようとした。
「届けっ!!」
剛力を発動させ、更に投擲と命中の技能を生かしてナイは刺剣を放り込む。この際に刺剣に装着した風属性の魔石を作動させ、風の魔力を帯びて更に加速した刺剣はホブゴブリンの頭部を貫通した。
「ッ――!?」
「やった!!」
「いや、まだだっ!!」
ナイが放り投げた刺剣によってホブゴブリンは始末できたが、既に魔石は投げつけられた後だった。このままでは魔石が橋の下に到達する寸前、リンは風の斬撃を放つ。
「はあっ!!」
リンは刃を振り切ると、風の斬撃が放たれて魔石に縄で括り付けられていた松明だけを切り裂く。松明の炎は風の斬撃によって掻き消され、そのまま魔石は堀の底へと堕ちていく。
どうにかリンのお陰で橋の爆破は免れたが、まだ安全は確保されたわけではなく、要塞の内部からホブゴブリンの鳴き声が響き渡る。その声を耳にしたドリスは驚いて振り返ると、いつの間にか武装したホブゴブリンの集団が彼女を取り囲んでいた。
「あ、あら……こんなにたくさん隠れていたんですの?」
『グギィイイッ!!』
「いかん、ドリス!!すぐに引き返せ!!」
先ほどの攻撃の影響でまともに動けないドリスではホブゴブリンに対抗できず、アッシュは声を張り上げるが、この時に複数の人影がドリスの元に向けて駆け出していた。
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