閑話 〈シノビとリノ〉
「――シノビ、どうして貴方は私に仕えたんだ?」
「…………」
イチノの城壁にてリノは自分の傍に立つシノビに視線を向けると、彼は何も答えない。そんなシノビに対してリノは不思議そうに語り掛ける。
「確かに私は貴方と妹を雇った。勿論、貴方達が何らかの目的があって私に仕えた事は知っている。ここまで私が生き延びる事が出来たのは貴方達のお陰だとは理解している……その上で聞かせてくれないか?」
「……王女として振舞うのであれば言葉遣いも何とかしてはどうだ?」
「なっ……!?」
シノビの言葉にリノは頬を赤くさせ、長く男として振舞って生きてきたため、彼女はまだ女性らしい言葉遣いがどうしても苦手だった。しかし、これから先は王女として生きていくのならば言葉遣いも少しずつ正さなければならない。
その一方でリノ王女の質問に対してシノビは考え込み、まだ彼女に自分達の目的を話す段階ではないと判断した。確かにシノビとクノはリノに仕えたとはいえ、それは彼女が王女という立場だからである。
――先祖の悲願である和国の再興のため、シノビはどうしても王国の人間に取り入る必要があった。現在の和国の領地の殆どは王国が管理している以上、彼は王族に取り入り、どんな手を使っても和国の領地を取り戻す必要があった。
王国は強国であり、力ずくで和国の領地を奪い返す事など出来はしない。ならば王国に敢えて従い、王族に取り入って気に入られ、何時の日か和国の領地を分け与えて貰い、和国の再興を行う。仮にそれが王国の属国となる道だとしても、国を立て直すにはそれしか方法はない。
その事をシノビはリノに伝えない理由、それは将来的に彼女に付き従うか分からないからだった。シノビの目的は将来的に国王の座に就く人間に仕え、現国王の死後に新たに国王を継ぐ人間の近臣に成り上がる事が目的だった。
(3人の王子の中で最も王位に近いのはバッシュ王子だ。だが、リノ王子が3人の王子の中で国王から最も寵愛を受けているのは間違いない)
王国の民の間では将来はバッシュ王子が王位に就くと信じられているが、国王は明らかにリノを優遇しており、そうでもなければ今回の遠征だってここまでの大規模になるはずがない。
国王は3人の王子の中でリノを可愛がっており、彼女が生まれた時に女である事を隠して男と公表して獣人国との婚約を断ったほどである。恐らくはリノに男性として生きていく道を強制させた事の弱みを感じているのだろうが、ともかく国王がリノを一番に目を掛けているのは間違いはない。
(王女を溺愛する国王ならばリノ王子にも王位継承権を与えるかもしれない。その時はバッシュ王子ではなく、リノ王子が王位に就けば俺としても都合がいい。最悪の場合、バッシュ王子を暗殺するのも手か)
目的のためならばシノビは手段を選ばず、仮にリノが本当に王位継承権を国王から与えられたならばシノビはどんな手を使ってもバッシュを暗殺し、場合によっては第三王子のアルトを仕留める覚悟もあった。
(仮にリノ王子が王位に就く可能性が無くなればバッシュ王子に仕えるのも手か……だが、リノ王子は俺達に借りがある)
ゴブリンが街の仲間で襲撃を仕掛けた時、リノを救ったのはシノビとクノであった。彼等は陽光教会の存在を思い出し、まだ生き残っていた者達を連れて陽光教会へ避難させた。
二人のお陰でリノも彼女の配下の騎士や他の人間も生き残る事が出来た。そのためにシノビはリノに借りを与えたと考えており、実際にリノも二人のお陰で命は助かった事は理解している。
「全く、そうやって話題を反らして……」
「……貴女が真に仕える主と認めた時、お話しましょう」
「それはつまり、今の私では真の主と認める気はないと言っているのか?」
「さあ、どうですかな……」
「はあっ……いいでしょう、そこまでいうのであれば貴方達が私の事を認めるまで手放しませんよ」
「ふっ……その日を楽しみにしてますよ」
リノの言葉にシノビは笑みを浮かべ、そんな彼を見てリノは初めてシノビの笑顔を見た気がした――
※なんかいい雰囲気になってますね(´・ω・)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます