第519話 煌魔石とペンダントのプレゼント
「はあっ、はあっ……よ、良かった。間に合ったぁっ……」
「そ、それはこっちの台詞よ……」
「二人ともどうしたの?何か疲れているようだけど……」
ナイは自分の元に訪れたヒナとモモに戸惑い、自分に何か用事があるのかと思ったが、この時にモモは緊張した面持ちでナイに渡す。
「あ、あの……ナイ君、これを受け取って!!」
「え?これって……魔石?」
「それは煌魔石というの。魔術師の間に伝わるお守り、みたいな物よ」
モモは1日も費やして作り上げた煌魔石を渡す。ナイは渦巻のような紋様が刻まれた魔石を見て不思議に思うが、受け取る。すると普通の魔石よりも魔力が感じられ、触れているだけで暖かく感じた。
この煌魔石は元々は聖属性の魔石だが、モモが1日もかけて魔力を注ぎ込み、魔石の魔力を回復させる事に成功した。恐らくは元の魔石よりも魔力が蓄積されており、丁度ナイは聖属性の魔石を切らしていたので有難く受け取る。
「本当に貰っていいの?なんだか凄く良い物だと思うけど……」
「う、うん!!貰ってくれると嬉しい!!」
「モモが頑張って作った物だから、大切にしてくれると嬉しいわ」
「そうなんだ……分かった、ありがとう」
ナイは魔法腕輪に魔石を嵌め込むと、それを見たモモは彼の役に立った事に嬉しく思い、緊張が解けたせいか急に体の力が抜けてナイの方に倒れ込む。
「わわっ!?」
「ちょ、大丈夫?」
「う、うん……昨日、ちょっと魔力を使いすぎちゃって……」
「モモ、貴方もう休んだ方が良いわよ。さっきまでずっと眠りっぱなしだったのは魔力を使いすぎたせいよ」
ヒナによるとモモは夕方頃に眠ったのに昼の時刻を迎えようとした今の時間帯になってやっと目を覚ましたらしく、魔力を使いすぎた影響でモモは疲労が蓄積されている状態だった。
モモはヒナに肩を貸して貰いながら移動し、飛行船内の自分の部屋へ向かう。この際、彼女はナイに別れ際に尋ねる。
「ね、ねえナイ君……この間は一緒に行けなかったけど、もしも王都に戻れたら……二人で一緒に商業区で遊んでくれる?」
「えっ……ああ、そう言えばこの間はミノタウロスのせいで行けなかったんだっけ」
モモの言葉を聞いてナイは随分前に彼女と一緒に商業区へ出かける約束はしたが、城下町に入り込んだミノタウロスのせいで遊べなかった事を思い出す。その後は色々とあってモモと二人きりで遊びに行く事はなかった事を思い出し、約束した。
「うん、それじゃあ王都に戻れたら二人で一緒に行こうか」
「本当!?や、約束だよ!!」
「う、うん……約束しよう」
ナイはモモに小指を差し出すと、彼女もすぐに小指を向けて二人は指切りを行う。子供同士のようなやり取りにヒナは苦笑いを浮かべるが、モモが勇気を出してナイを誘った事を思うと嬉しく思う。
二人はそのまま飛行船の中へ戻すと、ナイは改めて受け取った煌魔石に視線を向け、心強く思う。この煌魔石にはモモの想いが詰まっており、決して無駄使いはしない様に心掛けると、ここでリーナがナイの元へ赴く。
「あ、あの……ナイ君、ちょっといいかな?」
「え?」
「これ、この街のお守りだって……その、一つ余っているから貰ってくれないかな?」
「お守り?」
リーナは恥ずかしげにハート型の片端のペンダントを差し出すと、それを受け取ったナイは不思議に思いながらも覗き込む。その様子を見てリーナは居ても立っても居られずに走り去る。
「き、気に入らないなら身に付けなくてもいいから!!」
「え?あっ……行っちゃった」
ペンダントを受け取ったナイは不思議そうに覗き込み、変わった形をしたペンダントだと思いながらもとりあえずは懐にしまう。その様子を見ていたアッシュは表情をっ険しくさせる。
「あのリーナが俺以外の男に贈り物、だと……!?」
「アッシュよ、落ち着かんか。というか、怒る所はそこなのか?」
「まさかのリーナさんとナイ君が……」
「二人は仲がいいんだな」
アッシュはリーナが自分以外のしかも同世代の男子に贈り物をした事に衝撃を受けた表情を浮かべ、マホが落ち着かせる。エルマは意外そうな表情を浮かべるが、ゴンザレスは二人のやり取りを見ても良く分かっていないらしく、中が良さそうな二人を見て頷く。
その一方でドリスの方はナイを自分の部隊に引き入れられた事に誇らしげに胸を張り、そんな彼女にリンは苛立ちながらも忠告する。
「いいか、ドリス。ナイを勧誘しようとは考えるなよ」
「あら、それは私の勝手ですわ。リンさんに止められる謂れはありませんわ」
「このっ……」
「リ、リン副団長!!落ち着いて下さい!!」
「出発前に喧嘩は駄目」
ドリスにリンは突っかかろうとしたが、慌てて通りがかったヒイロとミイナが引き留める。そんな彼女達のやり取りを見て傍観者であるガオウは呟く。
「本当に大丈夫か、この部隊……」
ガオウはため息を吐きながら空を見上げ、これからゴブリンが築いた要塞に向かうというのに緊張がない彼等を見て呆れるしかなかった――
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