第517話 アルとエルのお守り

「色々と教えてくれてありがとうございました」

「……もう行くのか?」

「はい、これから用事があるので……あ、でもまた来て良いですか?」

「ふん、勝手にしろ……」

「親父、それはないだろ……ナイ、何時でも来ていいからな。まあ、しばらくの間は俺達も盗賊の武器を作り出していた事で怒られる事になるから会えないかもしれないけど……」



ニエルは盗賊に捕まったエルを人質にされ、脅されて盗賊達が扱う武器を作ってしまった。理由が理由なので彼が罪に問われるかどうかは分からないが、しばらくは仕事は出来ないという。


最も盗賊団は全員捕まり、街の治安を守るはずの警備兵の中にも盗賊団と繋がっている者が居たため、彼だけが非難される謂れはない。それでも何の処罰も受けないわけにはいかず、しばらくの間はニエルは取り調べを受ける事になる。



「ニエルさん……」

「そんな顔をするなよ、俺なら大丈夫だ。こんな状態の親父を放っておけないしな」

「やかましいわい、このひよっこが……」

「俺達の事は心配するな、お前はお前のやるべき事をやれ……また、会おうな」

「……はい!!」



ナイは二人に別れを告げると、家を出て行こうとした時にエルはナイの後ろ姿を見送り、昔の事を思い出す。数十年前、アルが旋斧を手にして家を出た時と姿が重なる。



(やはり親子か……血は繋がってなくとも、兄貴アルにそっくりじゃ……)



アルとナイは容姿は全く違うが、その後姿にアルの姿を重ねたエルは悩んだ末、ナイを呼び止める。



「待て、ナイ!!」

「えっ?」

「親父、何を……」



ナイは呼び止められて振り返ると、エルは痛む身体を無理やりに動かし、机の引き出しからある物を取り出す。それは子供の頃にアルが弟のエルのために初めて作ってくれた道具だった。


エルが手にしたのはまだ彼が小さい頃、アルの両親に引き取られたばかりで実の親が亡くなって寂しく塞ぎ込んでいた頃、彼のためにアルが作ってくれたお守りだった。それは指先で摘まむほどの小さい木剣であり、表面には家紋が刻まれている。



「これを持っていけ、アルからの餞別じゃ」

「わっ!?」



ナイは投げ渡されたお守りを受け取り、それを見て戸惑うが、エルは彼が手にしたのを確認すると鼻を鳴らして布団に潜り込む。その様子を見てニエルとナイは呆気に取られるが、ナイは渡された道具を見て笑顔を浮かべる。



「あ、ありがとうございました!!」

「……さっさといけ!!」

「たく、素直じゃねえな……じゃあな、ナイ!!また来いよ!!」

「はい、絶対にまた着ます!!」



お守りを握りしめたナイは元気良く腕を振り、外で待っているビャクはシノビたちとと合流し、イチノへ戻る事にした――






※短めですが、切りがいいのでここまでにしておきます。

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