第516話 旋斧と岩砕剣の誕生秘話
フクツの元に訪れた剣士は旋斧を手にして満足し、彼を褒め称えた。旋斧はどんな敵を屠っても刃が砕ける所か刃毀れすら起こさず、それどころか強敵を切る度により頑強により大きくなっていくと感じる。
旋斧は敵を切る度に強くなり、鍛冶師の手入れなど行わずとも戦闘傷ついた刃は自動修復される。しかし、後にフクツはこの旋斧を作り出した事を後悔したという。
彼が剣士に依頼されたのはどんなに無茶に扱っても「壊れない武器」であり、旋斧の場合はそれには当てはまらない。旋斧はあくまでも壊れても敵を切る事で自動修復するだけにしか過ぎず、絶対に壊れないわけではない。
敵を倒す事で強くなり、刃を再生する機能を持つ旋斧を剣士に渡した事にフクツは後悔し、彼は後にもう1本の魔剣を作り出す。それが「岩砕剣」だと言われ、旋斧と岩砕剣は同じ製作の元で作り出された兄弟剣という事をナイはこの時に初めて知った。
岩砕剣を作り上げたフクツは今度こそ依頼者の希望通りの剣を作り上げたと判断し、早速だが剣士を探し出して渡そうと考えた。だが、フクツに依頼した剣士はある時を境に姿を消してしまい、見つけ出すのに相当な時間を労した。
結局はフクツが剣士の家族の居場所を掴んで尋ねに行くと、既に剣士は死んでいる事が発覚する。剣士はとある魔物との戦闘で致命傷を負い、結局は助からずに死んでしまったという。
旋斧が強くなった事で剣士は様々な強敵に挑み、敵を倒す度に旋斧が強化される事を知って彼は無茶な戦闘を続けた。そのせいで彼は自分の力量に見合わぬ存在に手を出してしまい、死亡した。
だが、剣士は死ぬ間際まで旋斧を手元に置き、決して手放さなかったという。彼は最期の瞬間まで旋斧を手放す事はなく、死んでいったという。
その話を聞かされたフクツは酷く後悔し、自分が旋斧など渡したせいで剣士は死んでしまい、その家族を悲しませた。最初からフクツが旋斧ではなく、岩砕剣の方を渡していたら剣士は死なずに済んだかもしれない。
彼の家族は旋斧を形見だと思い、家宝として扱う事を決める。その言葉を聞いてフクツは何も言い返せず、結局は剣士が死んだ事で彼が作り出した岩砕剣は持って帰るしかなかった。
――後にフクツは旋斧を作り出した事を後悔したまま死亡し、彼の死後に岩砕剣は様々な人間の元へと渡り、そしてナイに巡り合った。まさかナイは旋斧と岩砕剣が同じ製作者に作り出されたとは思いも知らず、驚きを隠せない。
「旋斧と岩砕剣が同じ鍛冶師に作られた武器だったなんて……!?」
「……儂が知っているその剣の情報はそこまでじゃ。はっきり言ってその剣の能力は儂も、アルも、儂等の父親も詳細は知らん。唯一分かっている事は旋斧は敵を倒す度に強くなり、時には姿形が変わるというだけだ……」
「……そ、そんな魔剣、聞いた事もないぞ。敵を倒す度に強くなる剣なんて……鍛冶師泣かせの魔剣だな」
「だからこそフクツは後悔したのじゃろう。剣が勝手に強くなってしまえば儂等の存在意義がなくなる。フクツは死ぬときまで旋斧を作り出した事を後悔しながら死んだと聞いておる」
「…………」
ナイは話を聞いて旋斧に視線を向け、まさか旋斧にそんな過去があったとは思いもしなかった。しかし、最後まで話を聞いてナイは少し可哀想に思う。
製作者であるフクツは旋斧を作り出した事を後悔しながら死んでいったというが、旋斧を作り出す切っ掛けとなった剣士は恐らくは旋斧を作り出して貰った事を後悔などしていない。そうでもなければ死ぬ間際まで旋斧を手元に置いておくはずがない。
彼の両親も息子を死に至らしめる理由となった旋斧を家宝にする辺り、色々と思う所はあったのだろう。昔、ナイはアルからある言葉を教えてもらう。
『いいか、ナイ。どんなに強力な武器を手に入れようと、使い手によってはその武器は悪にも善にもなる』
『どういう意味?』
『要するに武器を手にした奴が悪い人間だったらその武器は悪者になる。でも、良い奴が手にしたらその武器は悪者じゃなくて正義の味方になるわけだ。武器に善悪なんてない、その事はしっかりと覚えておけよ』
『う、うん……わかった』
子供の頃のナイはアルの言葉の意味はよく分からなかったが、今ならば少しだけ彼の言いたいことが分かった。ナイはこの旋斧を手に入れた事に後悔はなく、同時にそれは岩砕剣にも言える事だった。
(作り出された事自体が間違いなんて……そんな可哀想な話はないよ)
旋斧も岩砕剣も同じ製作者が作り出した武器だが、その誕生のきっかけは大きく異なる。だが、ナイは旋斧も岩砕剣も同じぐらいに気に入っており、これからも大切に扱う事を誓う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます