閑話 〈お似合いの二人〉
「――はあああっ!!」
「せりゃああっ!!」
「お、お辞め下さい御二人とも!!」
「誰か、アッシュ公爵を連れてくるんだ!!」
イチノの郊外にてドリスとリンは向かい合い、互いの魔槍と魔剣をぶつけ合う。その様子を見て彼女達の配下の団員は必死に止めようとするが、相手は王国騎士の中でも3本指に入る実力者であり、止められるはずがない。
二人がどうしてこのような場所で戦っているのかというと、事の発端は一人の少年が関わっていた。その少年の正体はこの場には存在しない「ナイ」であり、彼女達はナイをどちらが勧誘するのか決めるために戦い合う。
「ドリス、お前の所には腐る程団員がいるだろう!!対してこちらは今回の任務で相当数の団員を失ったんだ!!なら戦力強化も兼ねてナイはうちが頂くぞ!!」
「くぅっ!?」
リンの斬撃はドリスの放つ爆炎さえも吹き飛ばし、彼女を後退させる。しかし、ドリスも負けずにランスを構えると、リンに突き出す。
「それを言うならば先にナイさんに目を付けていたのはうちの団長ですわ!!バッシュ王子は前々からナイさんの事を勧誘したいと言ってました!!」
「くぅっ!?」
ドリスの繰り出した攻撃に対して今度はリンの方が受け切れず、後退する。だが、リンは負けずに鞘に刀を収めると居合の体勢に入った。
「ふん、自分達が先に目を付けていたと言い張りたいのか?だが、生憎だが黒狼騎士団は成人した人間しか団員に入れられないという規則があるのだろう!!」
「あうっ!?」
居合の体勢からリンは強烈な風の斬撃を繰り出すと、ドリスは真紅で受け止めるが防ぎ切れずに後方に存在した建物の壁にぶつかってしまう。
ドリスは背中に痛みを覚えながらもリンを睨みつけ、あろう事か彼女は真紅を振りかざすと地面に向けて突き刺し、爆炎を放って地面を掘り起こして土煙で身を隠す。
「勿論、規則は守らなければいけませんわ!!ですが、未成年の人間でも仮入隊という形で受け入れる事が出来る様になりましたの!!」
「ちょっと待て、そんな話は聞いてないぞ!!」
「当然ですわ、最近作り出した規則ですもの!!」
「そ、それは卑怯じゃないのか!?」
黒狼騎士団は未成年者を団員として受け入れいれられない規則はあったが、新たに未成年者の場合は「仮入隊」という名目で受け入れられる規則を作り上げる。
仮入隊の場合は正式な団員ではないので未成年者を受け入れられないという規則には反せず、未成年者のナイを受け入れられる事をドリスは土煙の中に隠れながら告げる。そんな屁理屈に大してリンは暴風を振りかざし、土煙を振り払う。
「あのバッシュ王子がそんな子供じみた言い訳で納得したのか!?」
「あら、何も悪い事はしていませんわ。だいたいそういう貴女だってよく規則をやぶるではないですか!!」
「私が何時、規則を破った!?」
「黒狼騎士団が管理を任されている場所に貴方の騎士団が勝手に足を踏み入っているではないですか!!」
「それはお前の騎士団も同じだろうが!!」
ドリスとリンは魔槍と魔剣を繰り出し、魔法剣を発動させようとした。だが、この時に間に割って入る者が存在し、その人物は薙刀を振りかざす。
「ふんっ!!」
「きゃあっ!?」
「うわっ!?」
二人を止めたのはアッシュであり、彼は薙刀で二人の攻撃を同時に弾き返すと、どちらも体勢を崩して地面に倒れ込む。それを見下ろしたアッシュはため息を吐き出す。
ちなみにアッシュが所有する薙刀は只の魔法金属で構成された武器にしか過ぎず、魔槍の類ではない。それにも関わらずに彼はドリスの真紅とリンの暴風の攻撃を受け切り、二人を抑え込む。
「いい加減にせんか!!王国騎士同士の私闘は禁じられているぞ、しかも副団長という立場でありながら街中で戦闘など……何を考えている!?」
「ご、誤解ですわアッシュ公爵!!」
「そ、そうだ……私達はあくまでも合同訓練をしていただけで……」
「ほう、随分と実践的な訓練だな……周りを見てもそんな事が言えるのか?」
アッシュはこめかみに青筋を浮かべながら二人に周りを見る様に促すと、二人の戦闘のせいで周囲の建物は荒れ果て、元々ゴブリン達に襲われた時から酷い状態だったが、更に二人の戦闘のせいでより悲惨な状態に陥っていた。
二人は戦う事に夢中で周囲の被害を考えず、結果として街の建物を壊してしまう。そんな二人に対してアッシュは修羅のような表情を浮かべて怒鳴りつけた。
「二人とも今日は休む事は許さん!!明日まで飛行船の雑用を行えっ!!」
『ええええっ!?』
王国騎士の副団長の立場でありながらドリスとリンは船の雑用を言い渡され、結局は夜が明けるまで二人は働からされたという――
※その後の二人
ヒナ「御二人とも、ここがまだ汚れてますよ!?」
ドリス「ご、ごめんなさい」
リン「くっ……掃除というのは意外と難しいんだな」
先輩風を吹かしたヒナにこき使われました。
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