第501話 ニーノの街

イチノから馬で移動すると二日は掛かる場所に「ニーノ」と呼ばれる街が存在し、この街はゴブリンの軍勢の被害から逃れていたらしく、ナイ達が辿り着いた時は普通に入る事が出来た。


イチノと比べたら綺麗な街並みであり、イチノの住民の大半が一時的にこの街に避難していたとナイは聞いている。実際にイチノの住民らしき者達が馬車や馬に乗り込み、イチノへ向けて出発の準備を整えていた。



「あなた、やっと家に帰れるのね」

「ああ、ようやく街に戻れるんだな……」

「わ〜いっ!!」

「でも、本当に大丈夫なのか?また魔物に襲われたりしないよな……」

「大丈夫だ、王都から派遣された王国騎士様が俺達を守ってくれるんだとよ」



ニーノにはまだかなりの数のイチノの住民が残っていたらしく、彼等の話し声を聞いて既にニーノの街ではイチノからゴブリンの軍勢が退去した事は伝わっている事を知る。しかし、ここでナイは不思議に思う。



(どうしてこの街の人たちはイチノの現状を知ってるんだろう……こんなに早く連絡が届くなんてあり得るのかな?)



イチノの奪還に成功したのは夜明けを迎えた時間帯であり、まだイチノの奪還に成功してから1日も経過していない。それにも関わらずにニーノの一般人がイチノの詳細に詳しい事にナイは不思議に思うと、ここで彼の頭上に文を足に巻き付けた鳥が通り過ぎる。



(あ、そうか……連絡するだけなら魔鳥を頼ればいいのか)



魔鳥とは鳥獣型の魔獣の通称であり、鳥獣型の魔物の中には人間に飼育されて連絡手段として利用される種も多い。


鳥獣型の魔物は普通の鳥よりも移動速度が速く、更に地上と違って障害物に邪魔をされる機会も少ないため、連絡手段としては最適な存在である。魔鳥に文を括り付けて飛ばす事で連絡を伝えれば馬でも何日もかかる距離だとしてもすぐに連絡を伝えられる。



(そういえば飛行船に乗っている時も魔鳥を使っていたっけ……)



飛行船が停止していた際も魔鳥を使ってアッシュは他の街にも連絡を取り合い、イチノへ援軍に向かうように指示を出していた。だからこそニーノの街の住民もイチノの状況を把握しているらしく、ナイは魔鳥の便利さを思い知る。



(そういえば最初の頃は魔鳥を飛ばしてドルトンさんと連絡を取ってたっけ……最近は色々と忙しくて手紙を書く暇はなかったけど)



旅の際中にナイは魔鳥を利用してドルトンと手紙のやり取りを行っていた事を思い出し、最近では忙しくて手紙を書く暇もなく、そもそも王都からイチノまでかなりの距離が存在したため、魔鳥を通じての連絡は時間も金もかかるという理由で最近は手紙を出す事も無くなった。


だが、ちゃんと手紙のやり取りを行っていればナイはもっと早くイチノの現状をドルトンから聞いていたかもしれず、王都に戻ってもこれからは魔鳥でドルトン達と連絡を取り合おうと考えていると、ここでビャク達が騒ぎ出す。



「ウォンッ!!」

「「クゥ〜ンッ」」

「うわ、どうしたの急に……」

「どうやらお腹が減っているようでござるな」

「……あそこの屋台が気になるようだな」



ビャク達は食べ物の臭いを嗅ぎつけたらしく、屋台で販売している大きな肉を刺した串が気になる様子だった。ナイが近付いてみると、どうやらオークの肉を切り分けて刺した串を販売している様子だった。



「いらっしゃい!!お客さん、見た所は旅人のようだね!!どうだい、うちのオークの肉串を食べて行かないかい?魔獣の餌にも大人気の代物だよ!!」

「ウォンッ!!」

「はいはい、分かった分かった。すいません、焼いてあるのを全部貰えますか?」

「えっ!?全部買ってくれるのかい?」



ナイの発言に屋台の店主は驚き、ナイは代金を支払ってビャク達に与える。ビャクは嬉しそうに串を頬張り、クロとコクも嚙り付く。



「ハフハフッ……ウォンッ!!」

「「ガツガツ……」」

「よしよし……美味しい?」

「すまぬでござるな、クロとコクの分まで買ってもらって……」

「……食った分の代金だ、受け取ってくれ」



シノビとクノは相棒が食べた分の代金を支払い、それをナイは受け取ると一先ずはナイ達も休憩を挟む事にした。ここまで辿り着くのに数時間は走り続けたため、ビャク達も少し疲れている様子だった。


時刻は夕方を迎えており、まずはアルの弟が暮らす家に向かう前に今日の宿を探す事にした。この際にナイは屋台の店主に宿屋を尋ねる。



「すいません、この近くに宿屋はありますか?」

「ああ、宿屋か……それならここを真っ直ぐに進むと宿屋があるよ。けど、泊まれるかどうかは分からないけどね」

「え、どうして?」

「街の宿屋の殆どはイチノから来た住民がずっと宿泊してたんだよ。あの人達、帰る場所がなくて困ってたから領主が気を遣って全部の宿屋を貸し切りにしてイチノの人たちを住まわせてたんだよ」

「ほう……」



ニーノの街を管理する領主はイチノの住民が避難してきたときに街の全ての宿屋が彼等を受け入れるように指示したらしく、その話を聞いてナイはニーノの領主に好感を抱く。

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