第485話 死の運命

「まだまだぁっ!!」

『ウオオッ!?』



イリアは飛行船に搭載されていた魔石を次々と投げ込み、投擲の技能でも覚えているのか彼女の投げ放つ魔石は全て巨人に的中した。巨人は攻撃を防ごうとするが、触れた瞬間に魔石は砕け散って広範囲に火炎を放つ。


巨人の身体が炎に包み込まれ、苦しむようにもがく。その様子を見ていた他の者達はこの調子ならば案外倒せるのではないかと思ったが、ここでイリアは魔石を使い果たしてしまう。



「あ、魔石が切れました……もう駄目ですね」

「おいいっ!?」

「そんなっ!?」



飛行船に搭載されていた火属性の魔石を使い切ってしまったらしく、イリアは対抗手段がない事をあっさりと告げた。彼女の付与魔法はあくまでも魔力を物体に封じ込めるだけで遠距離攻撃などは行えず、攻撃が止んだ事で巨人は再び動き出す。



『ウオオオオッ!!』

「いかん、来るぞ!?」

「皆さん、船から飛び降りて!!」

「いや、間に合わねえよ!?」



怒りに満ちた表情を浮かべて巨人は右腕を大きく振りかざし、飛行船の甲板に向けて放とうとした。だが、この時に巨人の背後から近づく存在が居た。




「――うおおおおっ!!」

「ウォオオオンッ!!」




巨人の背後に迫っていたのはビャクに乗り込んだナイであり、ビャクは巨人の後頭部に目掛けて跳躍を行い、この際にナイは岩砕剣を振りかざす。一撃の威力ならば旋斧よりも岩砕剣の方が勝り、ナイは巨人の頭部に地属性の魔力で重量を増加させた岩砕剣を放つ。



「喰らえっ!!」

『ガアッ……!?』

「危ない、伏せて!?」



岩砕剣は巨人の頭部に叩き込まれた瞬間、その影響で巨人は手元が狂い、飛行船に拳を叩きつけるつもりが腕を振り払う形になる。その結果、甲板に立っていた者達は身体を伏せて腕を回避するが、この際に飛行船の帆が破壊されてしまう。


帆は巨人の腕に衝突して壊れてしまうが、甲板に居た者は身体を伏せていた事で絶命は免れた。そして巨人に攻撃を仕掛けたナイの方は歯を食いしばり、ビャクに命じる。



「離れろ、ビャク!!」

「ウォンッ!!」

『グゥウッ……!?』



ビャクは命令通りにその場を離れると、巨人は頭を抑えながらも地上へ降りたナイとビャクを睨みつける。この時に巨人の頭から血が流れていたが、致命傷と言えるほどの傷ではない。



(なんて硬いんだ……岩砕剣でも通じないのか)



かりにトロールなどの魔物だとしても今のナイの力ならば頭を叩き潰す事は出来た。しかし、岩砕剣の全力を一撃を受けても巨人は軽い脳震盪を引き起こす程度で致命傷には至らない。


恐らくは巨人の肉体の頑丈さはゴーレムキングに匹敵し、ただの物理攻撃では倒し切るのは不可能に近い。岩砕剣を改めて背中に戻したナイは旋斧を構える。



(こいつが……先生の言っていた「敵」か)



これまでに出会って敵の中でも恐らくは最大級の大きさを誇る巨人に対してナイは冷や汗を流し、同時にある事を思い出す。






――時は少し前に遡り、街中にてナイは巨人の咆哮を耳にした時、ヨウは彼を必死に引き留めようとした。ヨウとはそれなりの付き合いだが、この時にナイは初めてヨウの取り乱した姿を見た。



『ナイ、貴方だけは行ってはいけません!!あんな化物に勝てるはずがありません!!』

『ヨウ先生?それはどういう……』

『いいから早く逃げなさい!!貴方ではあの化物には勝てない!!命を粗末にしてはいけません……ここで死ねば貴方のために死んだ人たちが報われません!!』

『ちょ、ちょっと待ってください!!いったい何の話をしているんですか!?』

『錯乱している……落ち着かせた方が良い』



ヨウの言葉にナイと同行していたヒイロやミイナは彼女を落ち着かせようとするが、決してヨウはナイの身体を離そうとせず、逃げる様に促す。



『あの巨人に戦いを挑んではいけません!!そんな事をすれば……貴方は奴に死んでしまいます!!私はこの目ではっきりと見たのです!!』

『先生……?』

『……まさか、予知夢か?』

『予知夢!?あの伝説の技能の!?』



話を聞いていたリンはヨウの口ぶりから彼女が「予知夢」の技能を持つ人間ではないかと考え、ドリスも驚きを隠せない。この世界では予知夢は伝説の技能として広まり、この技能だけはSPを消費しても覚える事は出来ない。


予知夢は生まれた時点で身に着けていなければ決して覚えられない技能であり、貧弱の場合もこれに該当する(そもそも覚えられたとしてもわざわざレベルをリセットされる能力を好き好んで覚える人間がいるかどうかは不明だが)。


ヨウは予知夢の技能でナイが巨人に挑み、最後は死ぬ事を伝える。その事実を聞かされてナイは動揺を隠せず、まさか自分を殺す存在をヨウが予見していた事を初めて知る。

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