第484話 広域魔法でさえも……

「くたばれっ!!」

『ウオオオッ……!?』



草原に発生した竜巻は巨人を包み込み、周囲の土砂を巻き上げる。この際に小石などを巻き上げて巨人の肉体に石礫の如く襲い掛かり、たまらずに巨人は身を防ぐ。


本来であれば竜巻に飲み込まれた時点で内部の生物はミキサーのように切り刻まれるのだが、巨人の強靭な肉体は皮膚が切り裂かれる事はあっても致命傷には至らず、その様子を見ていたマホは杖を握りしめながら更に魔力を送り込む。



「このっ……いい加減にくたばらんかっ!!」

『オオオオッ……!!』



竜巻の規模を更に縮めてマホは威力を上昇させるが、それでも巨人は倒れる事はなく、それどころか筋肉を肥大化させて両腕を思い切り振り払う。



『オアアアッ!!』

「馬鹿なっ……皆、伏せよっ!?」

「きゃあっ!?」

「うおおっ!?」



巨人が両腕を振り払った瞬間に竜巻が蹴散らされ、周囲に強烈な風圧が発生した。この際に飛行船も影響を受け、地面に向けて降下する。


どうにかは船内のハマーンは舵を切って墜落だけは免れたが、飛行船は地上へ胴体着地し、この際に甲板に居た者達は床に転がり込む。



「あうっ!?」

「ぐはっ!?」

「いでぇっ!?」



船が着地した際にガオウはゴンザレスの下敷きになってしまったが、他の者達は大きな怪我はなく、船内からハマーンの声が響く。



『だ、駄目じゃ……魔力が切れた、この船はもう……』



その言葉を聞いた途端に全員が表情を青くさせ、飛行船が動かないのであれば逃げ場はない。そして竜巻を振り払い、全身に傷を負いながらも血走った目で巨人は飛行船を見下ろす。



『フウッ……フウッ……!!』

「ば、化物がっ……」

「もう駄目です、街へ逃げましょう!!」

「に、逃げてどうするんだ?そもそも逃げ切れるのか?」



エルマは街へ逃げる様に促すが、この状況下では巨人が簡単に逃がすはずがない。しかし、このまま飛行船に残っても死ぬのは明白だった。


巨人は竜巻の影響で全身から血を流してはいるが、皮膚が切れた程度で致命傷ではない。この巨人を倒すには生半可な攻撃では通じず、それこそマジクのような高火力の砲撃魔法や広域魔法でなければ損傷は与えられない。



(儂の魔法では威力が不足していたか……マジク、お主さえおれば……)



仕方がない事だがマホはマジクが既に死んだ事に悔しく思い、自分ではなくて彼がここにいればこの巨人を倒せたかもしれない。だが、いくら悔いようと死んだ人間が戻る事はない。


飛行船に向けて巨人は歩み、その表情は勝利を確信していた。もう焦らなくても飛行船が飛んで逃げる事はなく、仮に逃げたとしても今度こそ逃がさないつもりだろう。迫りくる巨人に対してリーナは蒼月を構えるが、その身体は震えていた。



「くっ……こ、こんな所で……死ねない!!」

「ちくしょう……こんな事態になるならを無理やりにでも引っ張ってくるべきだったな」

「最後まで諦めるな……諦めたらそこで終わりだ」



ガオウとゴンザレスも戦う意思は残っており、迫りくる巨人に武器を構えるが、もうマホは先ほどの広域魔法の影響で魔力を殆ど消耗して戦う事が出来ない。エルマも先ほどから魔弓術を乱発したせいで魔力に余裕はない。


この時にイリアだけは何故か甲板に姿はなく、彼女の姿が見えない事に他の者達も気づく。先ほどまでは確かに一緒だったのだが、いつの間にか姿を消していた。



「あれ、イリアちゃん!?」

「おい、あの女……何処に行ったんだ?」

「まさか……逃げたのか?」

「ええっ!?」



マホと同じ魔導士でありながらイリアは真っ先に逃げ出してしまったのかと全員が焦る中、ここで飛行船の後部の噴射口から声が上がる。



「私はここに居ますよ!!」

「イリア!?」



声がした方に振り返ると、そこには飛行船に設置されていた火属性の魔石を手にしたイリアの姿が存在し、先ほどの墜落の際に風属性の魔石は効力が切れてしまったが、まだ火属性の魔石は魔力が残っていたらしい。


火属性の魔石を手にしたイリアは巨人に向けて腕を振りかざし、彼女は魔石を投擲する。この際に投げつける寸前、付与魔法を発動させて魔石に魔力を送り込む。



風属性付与エンチャント!!」

『ウオッ……!?』



イリアが魔石を投げ込む際、彼女は火属性の魔石に風属性の魔力を流し込む。その結果、魔石の内部で火属性と風属性の魔力が混じり合い、魔石が砕けて広範囲に火炎が放出される。


この予想外の攻撃に巨人は怯み、傷を負った状態で火炎を受けた事から巨人は尻餅をつく。その様子を見て他の者達は呆気に取られるが、イリアは続けて別の魔石を取り出す。





――通常の場合、魔石に付与魔法を施す場合は同じ属性の魔力でなければ暴発を引き起こす危険性が高い。そしてイリアの場合は火属性と相性が良い風属性の魔力を付与させる事で敢えて暴発を引き起こし、攻撃を行う。


魔石の内部で二つの魔力が融合し、その際に魔石が耐え切れずに崩壊して内部に蓄積されていた魔力が外部へ放出される。その結果、魔石を普通に壊すよりも強力な攻撃を行う事に成功し、巨人を怯ませる事には成功した。

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