第483話 蒼月の強化

『ガハァッ――!?』

『くたばれ化物がぁああっ!!』

「爺さん!?」



船にハマーンの声が響き渡り、どうやら拡音石を利用して放送しているらしく、飛行船を発進させて巨人を押し潰す勢いで突っ込む。


飛行船の後部に設置されている噴射口から火属性の魔力が放出され、巨人よりも巨大な飛行船が突進し、遂には飛行船を支えきれずに巨人は地面に倒れ込む。この際に飛行船にも相当な衝撃が走ったが、どうにか甲板に立っている者は吹き飛ばされない様にしがみつく。



「くっ……なんて無茶をしやがる!?」

「だが、お陰で助かった……ハマーンよ、聞こえておるか!?飛行船をこのまま上空へ……」

『うおおっ!?』



飛行船が体当たりした事で巨人に反撃を繰り出す事に成功はしたが、この際に飛行船が上昇しようとした時、何故か途中で浮上が止まってしまう。



「な、何だ!?爺さん、なんで逃げないんだ!?」

『どうなっとるんじゃ!?何故、浮かばない!?』

「み、皆!!下を見て!!」



リーナは飛行船の下を指差すと、全員が覗き込む。すると飛行船に轢かれて地面に倒れていたと思われた巨人が船底を掴み、力ずくで飛行船を引きずり降ろそうとしていた。



『ウガァアアアアッ!!』

『ぬおおっ!?ま、まずい……このままでは持たんぞ!?』

「そ、そんなっ!?」

「くっ……この位置からでは攻撃できぬぞ!?」



巨人は飛行船の船底を掴んだ状態で立ち上がり、力の限りに引き寄せて飛行船を地面に叩きつけようとする光景を見てマホは杖を構えるが、この位置からでは広域魔法を発動したら飛行船まで巻き込んでしまう。


どうにか飛行船を引き剥がさなければいけないが、位置的にマホの魔法は当てには出来ない。エルマの魔弓術ならば巨人を攻撃できるが、有効打を与える事は不可能。



「くそ、離しやがれ!!」

「老師、どうすれば!?」

「くっ……」

「仕方ありません……リーナさん、貴女の出番ですよ!!」

「えっ!?」



イリアはマホから離れるとリーナの元に駆けつけ、彼女の手にする蒼月に右手を伸ばす。彼女の右手には水属性の魔石が嵌め込まれた指輪も取り付けられており、今回は所有者のリーナ自身にではなく、魔槍の方に直接魔力を送り込む。



「私の魔石の魔力を全て注ぎ込みます!!そうすれば貴女の魔槍も一時的にですが強化されるはずです!!後は何とかして下さい!!」

「何とかって……」

「いいから何とかして下さい!!」

「ええっ!?」



普段のイリアらしからぬ慌てた態度にリーナは戸惑うが、彼女の付与魔法のお陰で魔槍は水属性の魔力を取り込み、刃が光り輝く。その魔槍の変化を見てリーナは今ならば普段以上に蒼月の力を使いこなせると確信した。



「わ、分かったよ……何とかしてみせる!!」

「おい、何をする気だ!?」

「無茶です、この高さから落ちたら死にますよ!?」



蒼月を片手にリーナは船底に存在する巨人を見下ろし、彼女は覚悟を決める様に船から飛び降りた。その光景を見てゴンザレスとエルマは慌てて止めようとしたが、二人の心配とは裏腹にリーナは空中で蒼月を振りかざす。


船底を掴む巨人に対してリーナは蒼月を構えると、この際に槍の先端に巨大な氷の刃を形成すると、彼女は下りる際に握りしめていた鎖を利用して接近する。



「やぁあああっ!!」

『ウガァッ!?』



リーナが掴んでいた鎖は先ほどゴンザレスが投擲した碇の鎖であり、碇は巨人の胸元に突き刺さったままだが、鎖だけはまだ残っていた。それを利用してリーナは空中で鎖をロープ代わりに利用して巨人に接近する。


蒼月に纏わせた氷の刃を利用してリーナは船底を掴む巨人の右腕に切りかかり、この際に巨人の右手首に血が滲む。巨人は予想外の攻撃を受けて右手の力が抜けてしまい、飛行船を手放してしまう。



『ガアアッ……!?』

「やった……うわっ!?」

「やばい、おい早く鎖を引き上げろ!!」

「ふんっ!!」



巨人が船底を手放した途端に飛行船は一気に浮上し、この際にリーナが掴んでいた鎖をゴンザレスとガオウが握りしめ、彼女を急いで引き上げる。結果から言えば飛行船は巨人から逃げる事に成功した。



「よし、あと少しだ……良くやったな、嬢ちゃん!!」

「お陰で助かったぞ」

「はあっ……はあっ……ど、どういたしまして」



鎖を引き上げられてリーナはどうにか甲板に帰還する事に成功し、彼女のお陰で飛行船は巨人から逃れる事は出来た。だが、巨人は諦めるつもりはないらしく、上空へ浮き上がった飛行船へ向けて咆哮を放つ。




――ウオオオオオッ!!




怒り狂ったように泣き喚く巨人の姿に甲板に立つ者達は震え上がるが、そんな巨人を船首から見下ろす影が存在し、その人物は杖を構える。




『荒れ狂う竜巻よ、我が敵を薙ぎ払え……トルネード!!』




船首に立ったが杖を振り下ろした瞬間、彼女の杖の先端の魔石が光り輝き、地上に強烈な竜巻が発生した。その竜巻は巨人の元へ真っ直ぐに向かい、その巨体を包み込む。

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