第469話 シノビの誤算
――同時刻、街に残った冒険者と民兵はホブゴブリンの軍勢と向かい合い、必死に応戦を行う。その傍にはシノビの姿も存在し、彼は王子を守るために両手に短刀を構え、ホブゴブリンの群れに切りかかる。
「斬っ!!」
「グギィッ!?」
「ギィアッ!?」
「グギャッ!?」
的確に急所に狙いを定めてシノビは刃を切りつけるが、通常種のゴブリンならばともかく、ホブゴブリンの場合は肉体が硬く、生命力も強い。
「グギギッ……!!」
「ギィアッ!!」
「むっ……こいつら、薬草を!?」
怪我を負ったホブゴブリンは腰に巻き付けていた皮袋から薬草を取り出し、それに傷跡に向けて張り付ける。薬草は傷を癒すだけではなく、止血の効果もあり、致命傷を逃れた個体は傷口に薬草を張り付けて血を流れるのを止める。
ホブゴブリン達は山や草原で採取したのか各自が薬草が入った皮袋を所持しており、怪我を受けた時は薬草で治療を行う。まさか薬草の特性を理解し、それを利用して怪我を治すゴブリンなどシノビも初めて戦う。
「く、くそっ……こいつら、倒しても切りがないぞ!!」
「弱音を吐くな!!ここで踏ん張らないでどうする!!」
「そんな事を言っても、こっちだってずっと戦いっぱなしで限界が……」
冒険者も民兵も昨夜からずっと休み暇もなく身体を動かしており、体力の限界が近い。そんな彼等を見てシノビはそろそろ引き際かと考え、非情ではあるがシノビは逃げる準備を行う。
(俺だけならばここから離脱できる……悪いが、ここで死ぬわけにはいかん)
シノビの目的はリノを守り切る事であり、彼を救って街から逃げ出せれば良い。そのためにはどれだけの冒険者や騎士が犠牲になろうと関係なく、隠密を発動させて存在感を消し去り、人間や魔物の注意から逃れる。
(そろそろ王子も避難を負えたはず……クノの事が心配だが、あいつなら大丈夫だろう)
妹であるクノは性根が優しすぎるので他の人間に情けを掛けてしまう事はあるが、一流の忍者として育て上げられたシノビは情に流される事はない。
自分だけが生き残るために彼は隠密を使用して他の仲間やホブゴブリンの注意から逃れ、その場を撤退しようとした。だが、この時に予想外の事態が発生した。それは白馬に跨った騎士の集団が駆けつける。
「突撃!!」
『うおおおっ!!』
「なっ!?」
「あれは……リノ王子様か!?」
白馬に跨っているのはリノと彼が率いる銀狼騎士団の団員達で間違いなく、冒険者と民兵を襲うホブゴブリンの群れに突っ込む。彼等は一人一人が強者揃いであり、瞬く間にホブゴブリンを蹴散らす。
「くたばれっ!!この悪魔どもがっ!!」
「グギィッ!?」
「地上なら負けないぞ!!」
「グギィッ!?」
「す、すげぇっ……」
「つ、強い……」
白馬に跨った王国騎士達はあっという間に街道に集まっていた数十匹のホブゴブリンを一掃する。その強さに冒険者と民兵は唖然とした。
実はリノが率いる銀狼騎士団は最も得意とするのは馬上戦であり、籠城戦の際は馬が活躍する機会がないので碌に真の実力を発揮する事は出来なかった。しかし、今ならばその力を思う存分に発揮できる。
「君達!!ここは私達に任せて撤退するんだ!!君達はよく頑張った!!」
「お、王子様……」
「でも、俺達まで抜けたら……」
「君達にも家族はいるんだろう?なら最後まで諦めるな……さあ、もう避難するんだ!!」
「何を言っておられる!!」
リノが冒険者と民兵を逃がそうとする姿を見てシノビは黙っていられず、隠密を解除して彼の前に立つ。唐突に現れたシノビに大勢の人間が驚くが、シノビは未だに逃げずに残って戦っていたリノを叱責した。
「王子、どうしてこちらに残っている!?既に逃げられているはずではないのか!?」
「……民を置いて逃げる様な王族がいるはずないだろう。言っておくが、私はここで骨を沈めるつもりだ」
「なっ……何を馬鹿な事をっ!?」
自分は逃げずにこの地で死ぬ覚悟を告げたリノに対し、シノビは信じられない表情を浮かべる。リノはこんな状況で冗談を言う様な人物ではなく、彼はシノビに伝えた。
「私が死んだとしてもこの国には兄上がいる、弟だっている……ここで私が死んでもこの国が揺らぐ事はない」
「そんな馬鹿なっ!!貴方は自分が王子だと理解しているのですか!?」
「王族だからこそ、私はこの国の民のために尽くさねばならん。国の礎は王族ではなく、民だ。民がいない国など国とは言えない。王族として生まれた以上は私は民のために生きる事を母上に誓った!!」
「王子様……」
「我々も貴方と共に死にます!!」
リノの言葉に残っていた冒険者も民兵も感激し、民のために命を捧げるというリノの言葉に嘘は感じられなかった。しかし、それではシノビの計画が狂ってしまう。
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