第468話 救援活動

「お、おう……凄い一撃だったな」

「う、うむ……どうやら痛み止めのお陰のせいか、昔の様に身体が動かせるようになったらしい」



ドルトンは昔は優秀な冒険者であり、若い頃はアルと共に様々な魔物を打ち倒してきた。ナイが身に着けている腕鉄鋼は元々は彼の防具であると同時に武器でもあり、あらゆる敵を殴りつけてきた事を思い出す。


年老いたとはいえ、冒険者だったドルトンのレベルは一般人よりも高く、更にイーシャンの痛み止めのお陰で痛覚が麻痺しているので普段以上に身体を動かす事が出来た。これだけの力があればゴブリン程度ならば素手でも殴り倒せる事を確信する。



「イーシャン、やはりお主は優秀じゃな」

「いや、俺が用意したのはただの痛み止めなんだが……って、それよりも早く行くぞ!!ここまでもうゴブリンが潜り込んできたのなら急いで避難した方が良い!!」

「そうじゃな……」



二人は避難する前にここまで同行してくれた二人の男性に両手を合わせ、彼等の冥福を祈る。その後はすぐに避難場所に向けて移動を開始した。



「さっきのゴブリン、血塗れだったが防衛網を突破したのか!?」

「いや、奴は確かに血塗れだったが、血の方は乾いていた。恐らくは奴は以前にこの街に侵入した個体が潜んでおったのだろう」

「何だと!?前に街に忍び込んだ奴が隠れていたのか!?」



ドルトン達を襲ったゴブリンは負傷はしていたが、身体にこびり付いた血液は固まっている事をドルトンは見抜き、彼の予測では以前に街に入り込んだゴブリンが潜伏していた可能性が高い。


まだ防衛網は突破されていないと思われるが、もしも街の中に他にゴブリンが潜伏していた場合は厄介な事に陥り、ゴブリン達に一般人が下水道に避難している光景を見られるわけにはいかない。



「急ぐぞ、イーシャン!!もしかしたら既に下水道の存在は奴等に知られているかもしれん!!」

「くそ、ふざけやがって……うおっ!?」

「どうした!?」



走っている最中にイーシャンは立ち止まり、彼が何か発見したのかとドルトンは立ち止まると、イーシャンの視線の先には路地裏から出ようとしてくるゴブリンの姿が存在した。



「ギギィッ……!!」

「く、くそっ……こんな所にもいやがったのか!!」

「くっ……!!」



姿を現したゴブリンは何処から盗んできたのか斧を手にしており、ドルトンとイーシャンの前に立ちはだかる。相手が武器を持っているとなると流石にドルトンでも分が悪く、せめて武器があれば戦えたが、生憎とドルトン達の手元にある道具で武器になりそうな物は注射器ぐらいしかない。


ドルトンはイーシャンを庇うように構えると、斧を手にしたゴブリンは笑みを浮かべ、真っ先にドルトンに襲い掛かろうとした。



「ギィイイイッ!!」

「いかん、離れていろっ!!」

「ドルトン!?」



イーシャンを突き飛ばしたドルトンは迫りくるゴブリンに対して拳を振りかざすが、相手は既に斧を横向きに構えて振り払おうとしていた。このままでドルトンが切られるかと思われた時、ゴブリンの後頭部に衝撃が走る。



「せいっ!!」

「アギャアッ……!?」

「ぬおっ!?」

「な、何だっ!?」



ゴブリンの後頭部にクナイが突き刺さり、脳にまで届いたのかゴブリンは白目を剥いて倒れ込む。そして路地裏から現れたのは冒険者であるクノであり、彼女は指先を手繰り寄せると、クナイに巻き付いていた糸を引き寄せて手元に戻す。



「大丈夫でござるか?まだここに避難していない者がいたとは思わなかったでござる」

「あ、あんたは……冒険者、か?」

「そうでござる。拙者の名前はクノ、ニーノからやってきた冒険者でござる」

「おお、噂は聞いておるぞ。あの金級冒険者のクノか……」



ドルトンはクノの名前を聞いて彼女の噂を思い出し、優秀な冒険者であるという噂をよく耳にしていた。クノはゴブリンを始末すると、二人に早く避難場所へ向かうように指示を出す。



「さあ、御二人とも早く避難場所へ移動してくだされ」

「すまない、助かる!!」

「助かったぞ、儂の名前はドルトンじゃ。この恩は決して忘れんぞ!!」



クノはドルトンとイーシャンを先に行かせると、彼女は倒れているゴブリンの様子を伺う。まさか街中にゴブリンが潜伏していたなど思わず、これは街中の警備を行っていた自分達の失態である。



(兄者はほとほとに戦ったら王子を連れて避難しろといったでござるが、こ奴等がもしも他の仲間と遭遇したら大変な事になっていたでござる……もう一度、見回る必要があるかもしれぬ)



仮に他に街中に潜伏していたゴブリンが居た場合、他の仲間に住民達が下水道に避難している情報を漏らされる危険性が高い。そうなれば作戦は破綻し、ゴブリンの軍勢は下水道にも追いかけてくる。


ゴブリンの厄介な点はその知恵の高さであり、人間のように状況を共有できる点だった。通常種のゴブリンでも他の仲間に意思を伝える事が出来るため、仮に1匹でも下水道の情報を知ったゴブリンが他の仲間に知らせると大変な事態に陥る事を考慮し、クノは戦う事を決めた。

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