第467話 痛み止め
「――どうやら奴等が攻め込んできたようだぞ!!お前等、逃げる準備は出来ているな!?」
「は、はい!!」
「大丈夫です!!」
「うむ……では、頼む」
ドルトンの屋敷にて既にイーシャンは彼の屋敷の使用人と共に逃げる準備を整えていた。ここに残っていた使用人はドルトンに忠誠を尽くし、彼を避難させるために残った者達だった。
二人の男性の使用人にドルトンは肩を貸して貰い、この際にイーシャンは注射器を取り出すと、彼に痛み止めの薬を撃ち込む。しばらくの間は身体の感覚が薄れてまともに動けなくなるが、やがて痛覚だけが感じなくなり、自由に動けるようになる。
「おおっ……これは凄い、本当に痛みを感じなくなった」
「元々は手術用に開発した薬なんだがな……いや、そんな事よりも早く行くぞ。下水道に避難すればいいんだな?」
「うむ、既に避難は始まっているはずじゃ」
痛み止めの効果によってドルトンは身体を自由に動かせるようになり、驚いた表情を浮かべる。イーシャンが作り出した薬の効果は抜群で彼は一人で歩けるようになった。
事前に避難するための馬車は用意しており、使用人が御者となってドルトンとイーシャンは乗り込む。この時に逃げる際は余計な荷物は背負わず、イーシャンが治療の器具と薬をいくつか持って来たが、ドルトンは家宝のペンダントを除いて全て置いていく。
「これで我が屋敷ともお別れか……」
「おい、早く乗れ!!屋敷なんてまた稼いで建てればいいだろう」
「お主、儂がこの屋敷を作るのにどれだけの時間を……いや、そうだな。そんな事を言っている場合ではないか」
ドルトンにとってはこの屋敷は思い出深い場所なのだが、イーシャンの言う通りに今は生き残るために迅速に行動を移さなけえればならない。まずは避難場所に指定されている場所へ向かう。
「あ、あの……下水道の出入口なら街の至る箇所にあるんじゃないんですか!?」
「駄目だ、前の事件の時に下水道から敵が侵入する事を考慮して今では街の中心部にある出入口しか使えない様になっているだ!!その出入口も普段は鍵で施錠されているはずだが、今なら開いているはずだ!!」
半年前までは下水道に繋がる場所は街中の至る場所に存在したが、外部から魔物が侵入した事もあって殆どの出入口は封鎖されている。そのため、街の中心地に移動して開放されている出入口から逃げるしかない。
ドルトン達を乗せた馬車は防衛網の内側に存在し、まだゴブリンの軍勢は兵士達が抑えているはずだった。馬車は避難場所へ向けて出発し、到着まで数分とかからないはずだった。
「ドルトン、どうだ?変な感じはしないか?」
「うむ、平気じゃ……だが、この薬の効果はどの程度じゃ?」
「大丈夫だ、激しく動かなければそんなに簡単に切れる事はな……うおっ!?」
「ひいいっ!?」
「な、何だぁっ!?」
移動中に馬車が大きく揺れ、御者を行っていた男性の悲鳴が響き渡り、何事かとドルトンとイーシャンは様子を伺うと、そこには馬にしがみついたゴブリンが存在した。
「ギィイイッ!!」
「ヒヒンッ!?」
「な、何で……どうしてゴブリンがここに!?」
馬に襲い掛かったゴブリンは血塗れの状態であり、馬に嚙り付く。その結果、馬車を引いていた馬は悲鳴を上げて倒れ込み、この際に馬車も巻き込まれてしまう。
「ぬおおっ!?」
「うわぁああっ!?」
「ひぎぃっ!?」
馬車が転倒してしまい、ドルトンとイーシャンも馬車の外へ落ちてしまう。幸いにも二人とも大怪我はなかったが、この時に一緒に馬車に乗っていた使用人は外に飛び出した際に頭を強打して動かなくなった。
イーシャンは倒れた男の元へ向かうが、残念ながら既に事切れているらしく、彼は悔し気な表情を浮かべる。だが、御者を行っていた男の悲鳴が響き渡り、そこには血塗れのゴブリンが御者の首に噛みついていた。
「がぁっ……ああっ!?」
「アガァッ……!!」
「く、くそっ……こいつ!!」
「いかん、イーシャン下がれっ!!」
お供をしてくれた二人の男を殺したゴブリンに対してイーシャンは外に飛び出す際に偶然にも無事だった注射器を取り出す。ゴブリンは男の首の肉を引きちぎり、咀嚼しながらイーシャンと向かい合う。
イーシャンはただの医者であり、魔物を相手に戦った事は皆無に等しい。しかし、ここでゴブリンを何とかしなければ生き残る事は出来ず、彼は注射器を片手に挑む。
「死ね、このくそ野郎がぁっ!!」
「ギギィッ!!」
「退け、イーシャン!!」
ゴブリンはイーシャンに向けて跳び込もうとした瞬間、ここでドルトンが駆け出すと、彼は右腕を突き出す。その結果、突っ込んできたゴブリンの顔面にドルトンの拳がめり込み、そのまま吹き飛ばす。
老体が繰り出したとは思えない程の強烈な一撃であり、吹っ飛んだゴブリンは派手に地面に転がり込み、最初はイーシャンも何が起きたのか理解できなかった。ドルトンも目の前でゴブリンが吹っ飛んだ光景を目の当たりにして戸惑う。
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