第462話 下水道の抜け道

――思いもよらぬ反撃を受けた事でゴブリンの軍勢を撃退する事に成功した。しかし、その代償は高く、今回の夜襲での被害はこれまでの戦の中でも死傷者の数が多く、もう街を守るどころではない。


今回の夜襲だけで半分以上の兵士が死亡するか動けない程の重傷を負い、次にゴブリンの軍勢が仕掛けてきたらもう街を守り切るどころではなかった。報告を受けたリノは最後に残された兵士達を呼び集めると、昨日までは街の外に出る事を主張していた民兵が謝罪する。



「王子様、申し訳ございません……貴方の言う通りでした、俺達はとんでもない間違いをしちまった……」

「あいつら、逃げたんじゃなかったんだ……ずっと、俺達を見張ってたんだ。もしも外に出ていれば今頃は俺達も……」

「そんな事を言っている場合じゃないだろう」



謝罪を行う民兵に対してリノは首を振り、彼等を責めるつもりはない。今は仲間同士で争い合う余裕はなく、これからの事を話し合う。



「数はどれくらい残っている?」

「昨日までは1000人はいましたが、今では半分もいるかどうか……まともに戦えるの者は300人程度でしょう」

「300人……そこまで減らされたか」



昨夜の襲撃だけで半数以上の兵士が死亡か戦闘が出来ない程の怪我を負わされ、もう城壁で敵を迎え撃つ事も難しい。そもそも城壁自体も度重なる襲撃で損害が酷く、次に襲撃を受けたら間違いなく突破されるだろう。


しかも最悪な事に昨日の戦闘ではゴブリンの軍勢が梯子が櫓を用意し、更には今まで一度も行わなかった夜襲が実行され、次はいつ襲い掛かるかも分からない状況だった。こうして話している間にも襲われる可能性も存在し、その事実に兵士達の顔色は悪い。



「王子……もう我々は限界です。潔く、自害する時が来たのかもしれません」

「魔物に蹂躙されるぐらいならば……」

「そ、そんな……あんた達まで死んだらこの街はどうなるんだ!?」



銀狼騎士団の騎士達はゴブリンの軍勢に惨めに殺されるぐらいならば自決する覚悟はあったが、民兵からすれば王国騎士までいなくなれば彼等は希望を失う。そしてリノもこんな事で自分の命を諦めるつもりはなく、彼等を叱咤した。



「ふざけるな!!何が潔く死ぬだ!!私はこの国の王子として最後まで魔物などに屈しはしない、死ぬときは戦って死ぬ!!」

「王子、しかし勝ち目がない戦に挑むのは……」

「確かにこの状況で勝ち目を見出すのは不可能だろう。だが、負け戦であろうと出来ることはいくらでもある」

「それはどういう意味ですか……?」

「被害を減らす事だ……この街には下水道が存在し、かつてそこから魔物が侵入してきたという話を聞いているぞ」

「え、ええ……確かにそういう噂が流れた事があります」



イチノは以前にゴブリンメイジが率いる魔物の軍勢が襲撃を仕掛けた際、下水道から魔物が出現して街中に潜伏していた。その話はリノも報告を受けており、彼はそれを利用して下水道に住民を避難させるように促す。



「下水道から魔物が現れたという事は、外に通じる道が残っているという事だ。ならば我々にできる事は分かっているな?」

「まさか、下水道から外へ脱出するのですか!?しかし、ゴブリンの軍勢が見逃すはずが……」

「ああ、その通りだ。だからこそ作戦を立てる必要がある……実は前から私は策を考えていた」



リノはイチノの地図を取り出し、街の中心の近くに存在する建物を指差す。この建物は領主の屋敷であり、この屋敷に生き残った人間を集める事を伝える。



「もう城壁からゴブリンの軍勢を防ぐ事は出来ない。ならば、街の中心に住民を全員集め、脱出の準備をさせる。仮にゴブリンの軍勢が攻め寄せてきた場合、やつらは街中に入り込むだろう。その隙を逃さずに住民を下水道から脱出させるのだ」

「えっ!?」

「どうせ城壁ではこれ以上に敵の攻撃を防ぐ事は出来ない。ならば市街地に奴等を引き寄せ、敢えて敵の軍勢を街中に招く事で外の安全を確保する」

「つまり、王子様が言いたいのは奴等を街中まで敢えて誘導させて、外ががら空きになった所を逃げるのか?」

「そういう事だ。勿論、奴等が乗り込んで来た時のために街の至る箇所に防衛網を用意しておく。家具でも何でも街道に置いて敵の侵入を防ぐんだ。簡単に街の中に入り込まれては逃げる暇もないからな」



兵士達はリノの話を聞いて驚き、だが彼の策以外に従うしかなかった。作戦の内容自体は悪くはなく、そもそも他に作戦の立てようがない。


リノは敢えて城壁を放置してゴブリンの軍勢を街中に招き寄せ、その間に下水道を通って住民達だけでも避難させるつもりだった。しかし、この作戦はゴブリン達に下水道の存在を気付かれないために考慮する必要があり、早速彼は生き残った者全員を集め、準備に取り掛からせた――

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