第463話 住民の一致団結

――ゴブリンの軍勢が攻め寄せる前に街の住民が領主の屋敷に呼び集められ、彼等はリノと対面する。ここで初めて王子である彼と会う人間も多く、王族と巡り合う機会んど滅多にないため、住民達はリノを前にして緊張してしまう。



「なあ、あれがリノ王子なのか?」

「噂通り、まるで女みたいに綺麗な人だな……」

「馬鹿、失礼だぞ!!」



住民の前に姿を現したリノは彼等を前にしてこれから自分が言う事を従ってくれるのか不安はあったが、それでも一人でも多くの人間が生き残るためにはこれしか方法はないと思い直し、堂々と告げる。



「私がこの国の第二王子であるリノだ!!今日、この場に君達を集めたのは他でもない!!もう既にゴブリンの軍勢は街の外まで迫っている事は知っているだろう!?」

「あ、ああ……」

「やっぱり、本当だったのか……」

「くそ、どうしてこんな事に……」



リノの口から街がゴブリンの軍勢に包囲されている事実を知った住民達は項垂れ、希望を失いかける。しかし、そんな彼等に対してリノは声を張り上げた。



「顔を上げろ、絶望に屈するな!!奇跡は最後まで希望を捨てなかった人間の元にしか訪れない!!」

「奇跡……」

「希望だと……?」



この絶望の状況の中でリノは諦めていない事を知らせると、住民達は驚いた表情を浮かべた。ゴブリンの軍勢が街を包囲した以上は逃げ場などなく、しかも街を守るための兵士はもう昨日の半分も残っていない。


それでもリノは決して暗い顔を浮かべず、最後まで諦めないという強い意志を宿した瞳で住民達を見つめる。その彼の態度に希望を失いかけていた住民達は戸惑う。



「諦めなければ奇跡が起きるのですか!?」

「王子様はこの状況でも我々が生き残れると思っているですか!?」

「そうだ!!君達はまだ生き残れる可能性がある!!だから最後まで諦めずに力を貸してくれ……希望を捨てず、最後まで戦うんだ!!そうしなければ生き残れない!!」

「お、俺達に何が出来るんですか!?教えてください、王子様!!」



生き残れる可能性があると知らされた住民達はリノが何を考えているのかを尋ねると、それに対してリノは意を決したように騎士達に向けて頷き、すぐに騎士達はこの街の地図を広げる。



「これをよく見てくれ!!この場所は街の中心部、つまりは最も城壁から離れた位置に存在する。いまから君達には街中に存在する家具を用意してもらい、この地図上に記された箇所を封じて防衛網を形成してほしい!!」

「家具?」

「街道を塞ぐ……という事ですか?」

「でも、そんな事で奴等を食い止められるんですか!?」



リノの言葉を聞いて住民達は不安な表情を浮かべ、城壁を突破するような化物に対して今更家具を障害物に利用して街道を塞ぐ程度で防げるとは思えない。しかし、リノの真の狙いは他にある事を伝えると、彼等の表情は一変した。



「案ずるな、街道を塞ぐのはあくまでも時間稼ぎに過ぎない!!奴等がここへ辿り着くまでの時間を稼ぐだけでいいんだ!!奴等が街に攻めてきた後、下水道に君達を逃がす!!」

「下水道!?どうしてそんな場所なんか……」

「下水道は外に繋がっている事は知っているだろう!!半年前に魔物が襲ってきた事を思い出してくれ、あの時の魔物は下水道を通じて街に入り込んできた。だが、逆に言えば下水道を潜り抜けて外へ逃げられるという事だ!!つまり、ゴブリンの軍勢が街中に入ってきた間に君達は外へ逃げられる!!」

『おおっ!!』



説明を聞いていた住民達は街の外に逃げられるという言葉に反応し、希望を見出す。だが、ここで不安を抱いた者が声を上げる。



「お、お待ちください!!下水道にも奴等が待ち構えていたらどうするのですか!?前の時も魔物は下水道を通ってきたのでしょう!?」

「その可能性もあるだろう。だが、今日まで奴等が下水道を通じて街に侵入した事は一度もない。実際に下水道の事を奴等が知っていれば最初に襲ってきた時点で下水道を通じてこの街を落としていただろう?」

「い、言われてみれば確かに……」

「それに半年前の事件から下水道には外部から侵入できないように罠を張ってある。しかし、その罠を解除すれば外へ逃げる事が出来るだろう。心配する必要はない、奴等は下水道に現れる事はない!!」

『うおおおおっ!!』



下水道からならば外に出られる可能性があると知って住民達は湧きあがり、完全に希望を取り戻す。そんな彼等に対してリノは命じた。



「全員が脱出するためには皆が一致団結して力を合わせる必要がある!!だからどうか兵士だけではなく、動けるものは力を貸してくれ!!あらゆる建物から家具を運び出し、街道を塞ぐんだ!!急げ、ゴブリンの軍勢が動き出す前に行動を開始するんだ!!」

「よ、よし!!行くぞお前等!!」

「この地図に記してある場所を封じればいいのか!?」

「うおおおおっ!!絶対に生き残ってやる!!」



住民達は一丸となって王子の指示通りに行動を開始し、一先ずは街中の建物から家具を集め、街道を塞ぐ準備を行う。リノはそんな彼等を見て作戦の第一段階が成功した事に安堵するが、同時に彼等を事に罪悪感を抱く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る