第452話 船の整備
――空賊の頭は自害し、さらに捕縛した暗殺者4人が死亡した事により、アッシュ公爵は味方の中に裏切り者がいると判断した。しかし、その裏切り者を見分ける方法がない。
暗殺者達に関しては闇ギルドが送り込んだのは間違いないが、空賊に船の位置を伝えた内通者に関しては見つける手がかりはなく、船の修理を終えると再びアッシュは飛行船で移動を行う。
予期せぬ事態に陥ったが、飛行船はイチノへ向けて確実に近付いており、明日の朝には到着する位置まで辿り着いた。今回は敵の襲撃を警戒し、周囲が草原に囲まれた湖に着水し、24時間体制で見張りを立たせる。
「いいか、常に行動する時は3人以上だ!!食事も睡眠の時も他の者と離れて単独で行動する事は許さん!!交代制で今夜は見張りを怠らずに周囲を警戒し続けろ!!」
『はっ!!』
アッシュは味方内に潜んでいる裏切り者にこれ以上は好き勝手させないように常に団体行動を徹底させ、怪しい動きを見せた人間は報告するように通達する。暗殺者達の時は二人行動を厳守させたが、その時は二人とも闇ギルドが送り込んだ暗殺者だったので今回は知り合い同士の行動を避け、くじ引きで組み分けを行う。
常に三人態勢で行動を徹底させ、裏切り者が動きにくい状況を作り出す。この際にナイはリーナと別れ、他の人間と組む事になった。
「まさか儂等が組まされる事になるとはのう」
「ちぇっ……野郎同士が組んで何が面白いんだよ。出来る事なら可愛い女の子と一緒になりたかったね」
「はあっ……」
ナイは一緒に行動する事になったのは黄金級冒険者のハマーンとガオウであり、偶然にも二人とはくじ引きで一緒になった。最もハマーンは船の整備などで忙しく、その仕事を二人も手伝わされる事になる。
「ほれ、文句を言ってないでお主も手伝わんか。ナイよ、そこにある工具を取ってくれるか?」
「これですか?」
「うむ、これを使えば魔石を簡単に取り外せるからのう。いいか、よく見ておけ。これをこうやって取り外すんじゃぞ」
ハマーンはナイ達に船に設置されている魔石の交換する方法を教え、今日中に船に取り付けられている風属性の魔石を交換する必要があった。この飛行船の動力は魔石であり、風属性の魔石を利用して船を浮上させ、火属性の魔石で加速を行う。そのため、飛行中の際は常に魔石の魔力を消耗するため、定期的に入れ替える必要があった。
「爺さん、あんたも大変だな。飛行船の運転の後はずっと船の整備を行うなんて……こんなの黄金級冒険者の仕事とは言えないだろ」
「別に苦とは思っとらんよ。この船がまた飛べる日が気て儂としては嬉しいからのう……それに儂の本職は鍛冶師じゃ」
「そういえばハマーンさんは前にこの飛行船に乗った事があるんですよね」
「儂が鍛冶師を目指したのはこの船に乗るためでもあったからのう。優秀な鍛冶師ならば船の整備を任せられて一緒に飛行船に乗る事が出来ると知ってな。あの時は必死に一流の鍛冶師になろうと頑張ってたのう」
「そんな理由で鍛冶師になったのか!?」
「皆には秘密じゃぞ……すまんが船の側面の魔石を取り換えたい。ナイよ、ロープを取ってくれ」
「あ、はい」
ハマーンはロープを自分の腰に括り付けると、ナイにそれを持たせて船の側面に固定されている魔石の交換を行う。ナイはハマーンを落とさないようにしっかりとロープを掴み、その様子を見ていたガオウは感心した声を上げる。
「へえ……前々から思っていたが、坊主は人間にしては力があるな。あの爺さん、年老いてはいるが太ってるし、色々と工具を持っているから結構重いだろ?」
「いや……別に普段から重い物を持ち歩いているので平気です」
「聞こえておるぞ!!人をオーク扱いするでない、儂の身体の殆どは筋肉じゃっ!!」
小髭族であるハマーンは人間よりも小さいが、黄金級冒険者にして優秀な鍛冶師でもあり、普段から重い素材や工具を扱っているので老人といってもかなり筋肉が身に着いている。大抵の小髭族は人間よりも小柄だが、その分に筋肉が凝縮されており、見た目は小さくても体重は重い。
しかし、普段から旋斧や岩砕剣などの大剣を持ち歩いているナイにとってはハマーンの体重など大して負担でもなく、彼の指示通りにロープを掴んで移動を行う。その様子を見てガオウは改めてナイが異常な筋力を身に着けている事を知る。
(このガキ、何なんだ……見た目は華奢に見えるが、普通の肉体じゃない。これだけ長い間、あの爺さんを支え続けているのに汗一つ流していない。大した奴だな)
ガオウはナイの筋力と体力に驚かされ、観察している間にもハマーンは船の整備を終わらせ、ナイに引っ張り上げてもらう。甲板に戻ったハマーンはひとまずは残りの仕事は弟子たちに任せることにした。
「ふうっ……これで重要な箇所の交換は終わった。後の事は儂の弟子たちでなんとかなるだろう」
「お疲れさまでした」
「お疲れさん」
「お前な……儂等に任せて結局は仕事を手伝わんかったな」
「こういう緻密な作業は苦手でね……ほら、これやるから許してくれよ」
作業は結局はナイとハマーンに任せてガオウは手伝いはせず、その詫びのつもりなのかハマーンに水筒を渡す。中身は回復薬が入っているらしく、ハマーンは不満な表情を浮かべながらも水筒を受け取り、中身を飲む。
※ハマーン「そういえば最近、変な三人組が儂の手伝いをしておってな」
ナイ「へえ、どんな人たちですか?」
ハマーン「まあ、変わった奴等じゃよ……」
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