閑話 〈王国の闇〉
「――老師、大丈夫ですか?」
「むっ……ああ、少し眠っていたようじゃ」
飛行船の甲板にてマホは弟子であるエルマに声を掛けられ、自分が意識を失っていた事を知る。エルマはそんな彼女を心配するように見つめ、そんな弟子を見てマホは苦笑いを浮かべた。
「儂なら大丈夫じゃよ、そう心配する出ない」
「嘘です……やはり、魔力を完全には取り戻されていないのですね」
「いや、そんな事は……」
「老師、私に嘘を吐かないでください」
エルマの言葉にマホは言い返せず、師としては弟子に弱みを見せたくはない気持ちはあるが、この調子だといずれ大変な事態に陥る可能性を考慮して真実を話す。
「体調自体は前と比べれば良くなってきたが、それでも時々こうして意識を失う時がある。魔力は大分戻ってはきたが、この調子では広域魔法を発動させるのも難しいかもしれん」
「老師、やはり老師は王都に残るべきでした……」
「そういうわけにはいかん。マジクがいなくなった以上、奴の代わりを果たせるのは儂だけ……この役目は儂以外には果たせん」
未だにマホはグマグ火山から帰還する際、魔力を使い果たした影響で体調は完全には戻っておらず、本来ならば安静にしなければならない状態である。
しかし、第二王子の危機とあれば魔導士である彼女が何もしないわけにはいかず、マジクの代わりとして彼女は彼の分も役に立たなければならなかった。しかし、現在の状態ではまともに魔法を使えるのかも怪しい。
空賊が襲撃した時に真っ先に対抗しなければならなかったのはマホであり、彼女の風属性の魔法ならば空賊など簡単に蹴散らす事が出来た。しかし、マホが動けなかったのは彼女が意識を失っていたからであり、エルマもゴンザレスも彼女の傍から離れられずに行動する事が出来なかった。
「そういえばゴンザレスは何処におる?先ほどまでここに居たはずだが……」
「ゴンザレスなら少し前に外へ出向き、老師のために肉を取ってくると言っていました。肉を食べて精を付けて元気になってほしいと……」
「むう、老体の儂に肉料理は少々きついが……しかし、その気持ちは有難いのう」
「老師、もうお休みください。見張りならば私が代わりを……」
「そうじゃな……ここは弟子たちに甘えるとするか。儂も心強い弟子を持って嬉しいぞ」
マホはエルマとゴンザレスに船の事を任せ、一足先に身体を休める事にした。その様子をエルマは心配そうに見送り、それでも彼女の代わりに船の見張りを行う。
エルマはマホが心配しているのは内通者の存在だと気付いており、既にアッシュからマホは「王国の闇」と繋がりを持つ存在が居るという話を聞いている。この王国の闇とはどういう意味なのかはエルマも知らされていないが、少なくとも闇ギルドの存在ではない。
(王国の闇……王国という事は、まさか王都内部の人間が……?)
今回の空賊の襲撃は闇ギルドが仕掛けたとは思えず、そもそも闇ギルドの目的は船の爆破であり、空賊たちの場合は船を攻撃はしたが破壊を試みる様子はなかった。
考えられるとしたら空賊は闇ギルドとは別の存在が動かし、捕まえた暗殺者達も死んだのは彼等が自害したのではなく、自害に見せかけて何者かに殺された可能性が高い。
(まさか今もこの船に裏切り者が……?)
エルマは船内に未だに闇ギルドとは違う存在と繋がっている「裏切り者」が紛れ込んでいるのではないかと考え、恐らくは相当な実力者であり、もしかしたら自分の知っている人物かもしれないと思うと、彼女は不安でどうしても落ち着く事が出来なかった――
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