閑話 〈最強の暗殺者と最恐の魔術師〉
「……シャドウ、お主は何時からここに居た?」
『お前達が訪れるずっと前からだ……それにしても前回と同じ場所で会合を行うとは不用心だな』
「ふん、最初から儂はお主がここへ来ると知って追ったわ」
『ほう……』
シャドウと名乗るローブの人物は全身にフードを着込んでおり、しかも中身が闇に覆われて見えない。これは比喩ではなく、シャドウの肉体は闇属性の魔力で覆われている。
聖属性の魔力の適正が高い人間は強化術を発動させると全身に「白炎」と呼ばれる聖属性の魔力を帯びる。しかし、闇属性の適正が高い人間の場合は真逆に黒色の魔力に包まれ、まるで全身が影に覆い込まれたかの様に姿を確認する事が出来ない。
こうして直に話しても全身に覆う魔力の影響なのか声音も不気味で正確な容姿や性別さえも分からない。だが、一つだけ言えるのは老人はシャドウとは古い付き合いである。
(相も変わらず不気味な男よ……いや、男なのかすらも分からんな)
シャドウの言葉使いや仕草から老人は彼の事を男性だと思っているが、実際の所は分からない。彼とは数十年の付き合いだが、シャドウの正体は知らない。ひとつだけ確かな事は彼に依頼を頼めば絶対に失敗する事はない。
「シャドウ……お主の力を借りたい」
『話しは聞いていた。元聖女騎士団の副団長テンの暗殺という事でいいか?』
「その通りだ。報酬は……金貨400枚でどうじゃ?」
「き、金貨400枚!?」
「正気か……!?」
金貨400枚という値段に他の闇ギルドの代表は驚愕し、テンを殺すためだけにそれだけの大金を支払うつもりなのかと驚くが、シャドウは不服そうに腕を組む。
『ふざけているのか……相手は仮にも王国の関係者だぞ。それにかなりの手練れだ、そんな程度の金額では暗殺は引き受けられないな』
「ならば……倍の金貨800枚でどうじゃ?」
「ネロ殿、本気ですか!?」
「あの女を殺すために金貨800枚など……」
「黙れ!!これは我々の組織の存続が掛かっておるのだぞ!!」
金貨400枚の時点で法外な値段だが、更に倍の報酬を用意すると言い張る老人に他の者達が慌てふためくが、ここで老人の名前は「ネロ」だと判明する。しかし、シャドウはその値段も納得できないのか、更に値段を釣り上げた。
『話にならないな。800枚では切りが悪い……1000枚だ。それでどうだ?』
「いっ……き、貴様!?本気で言っているのか!!」
「……そこまでにしておけ」
闇ギルドの代表の一人が我慢できずに立ち上がって文句を告げようとしたが、その直後に背後から何者かが現れ、日本刀を首筋に押し当てる。気配も音も立てずに現れた人物に円卓に座る者達は恐怖の表情を浮かべる。
「ひっ……!?」
「お主は……イゾウ!?何時からここに!?」
「ご、護衛は……外の護衛は何をしていた!?」
「……殺してはいない、だがしばらくは目を覚まさないだろう」
この建物には各闇ギルドの精鋭が集められ、侵入者を警戒して見張りを立てていた。しかし、イゾウは誰にも気づかれる事もなく彼等の護衛を無効化させ、ここまで辿り着いた事を告げる。
ネロはこの時に部屋の中で待機していた側近たちが倒れている事に気付き、シャドウの登場で注意が反れていたとはいえ、自分の組織が誇る精鋭を音も立てずにイゾウが気絶させていたという事実に戦慄した。
『ネロ、お前とは長い付き合いだ。闇ギルドが崩壊するのは俺達にも都合が悪い……だから特別に今回の依頼の内容を変更させてやる』
「な、なんじゃと……」
『仮にテンを殺した所で集まってきた聖女騎士団の団員は諦めたりはしないだろう。むしろ、テンの意志を継ぐなど言い出して自分達が騎士団を再結成させようとするだろう……それならばいっその事、邪魔者を全員排除すればいい話だ』
「ど、どういう意味だ!?」
『安心しろ、この件は俺達に任せろ……報酬を用意して期待しながら待っていろ』
「……命拾いしたな」
シャドウは一方的に告げると、彼は杖を取り出して地面に突き刺す。その瞬間、円形状の影が出現してシャドウはその中に飲み込まれて姿を消し去る。そしてイゾウは捕まえていた男を離すと、そのまま音も立てずに立ち去った。
二人が消えた途端、ネロは全身から脂汗を流し、他の者達はあまりの緊張感に一気に老け込んだように顔が皺だらけとなり、力なく椅子に座り込む。あの二人の迫力を浴びるだけで王都の裏社会を支配する闇ギルドの代表たちは精神的に追い込まれていた。
「く、くくっ……シャドウめ、何を考えいているのか分からんが、これであの女の命もお終いよ。あいつならばあの王妃のように殺してくれるわ」
――かつてシャドウは聖女騎士団の団長である「ジャンヌ」の暗殺の依頼を引き受け、それを成し遂げた伝説の暗殺者である。いくらテンが強くとも、シャドウと彼の相棒であるイゾウならば必ずやテンを討つとネロは確信し、狂ったように笑い声をあげた。
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