第446話 空賊

「な、何だっ!?」

『ひいいっ!?』



船が傾いたのかナイは壁に激突し、この時に扉の外から聞き覚えのある声を耳にした。その声を聞いてすぐにナイはイリアだと気付き、扉を開くと彼女は傾いている床にしがみついていた。



「な、何ですかこれは!?」

「イリアさん!!」



咄嗟にナイは床を転げ落ちそうになっている彼女の腕を掴む。やがて傾いていた床は元に戻っていくが、ここで船内にアッシュの声が響き割る。



『緊急事態発生!!敵の攻撃を受けている!!』

「うわっ!?アッシュ公爵!?いったい何処に……」

「落ち着いて下さい、拡音石を利用して声を伝えているだけです!!この場所にはいません!!」

「拡音石?」



ナイに助けられたイリアは天井を指差すと、そこには変わった紋様が刻まれた風属性の魔石が埋め込まれていた。どうやらこの魔石を通して船長室にいるアッシュが船内の全員に連絡を伝えているらしい。


魔石に加工を施す事で効果を変化させる事が出来る「細工」と呼ばれる技能が存在し、今回の場合は風属性の魔石に細工を施した事で「拡音石」なる魔道具に変化させている。拡音石は声を拡大化させる機能があり、拡音石の傍にはパイプのような物が繋がれていた。このパイプにアッシュは話しかける事で声を伝えている事が判明する。



『現在、この船は得体の知れない生物に攻撃を受けている。なので緊急着陸を行う!!』

「緊急着陸!?」

『水上ではなく、地上へ向けて着地を行う。全員、衝撃に備えろ!!』

「ナイさん、窓を見てください!!」



アッシュの言葉にナイは驚いている暇もなく、イリアに言われて窓の外を確認する。その結果、外では無数の影が存在し、先日に見かけた「ヒッポグリフ」なる魔物が船を取り囲んでいた。



「こいつらは……魔物!?」

「よく見てください、あいつらの背中に乗っている奴等の方を!!」

「えっ……」



イリアの言葉にナイは観察眼を発動させると、確かにヒッポグリフには背中に人間を乗せており、彼等は手に武器を所持していた。彼等はヒッポグリフを動かして船に体当たりを行わせる。



『突っ込めっ!!』

『クエエエッ!!』

「うわっ!?」

「危ないっ!?」



ヒッポグリフの集団が飛行船に突っ込むと、その衝撃を受けて船内が再び傾く。先ほどの衝撃もどうやらヒッポグリフの攻撃だと判明し、何者かは不明だが現在の船はヒッポグリフの大群とそれを乗りこなす人間達の襲撃を受けていた。


このままでは危険だと判断したナイは船の至る所に設置されている手すりを掴み、場所の移動を行う。空を飛んでいる相手にこの場所からでは対抗手段はなく、甲板へと向かう。



「甲板へ向かおう!!きっと、あそこから入ろうとするはずだ!!」

「くぅっ……仕方ありませんね、ならナイさん!!私の魔法で強化しますよ!!」

「え、魔法って……!?」



イリアは自分の事を薬師だと説明し、魔法は不得手と本人が言っていた。魔導士の位でありながら魔法が苦手という彼女の話を聞いた時はナイも戸惑ったが、イリアはナイの腕を掴むと意識を集中させるように魔法を発動させる。



聖属性付与エンチャント!!」

「うわっ!?」



イリアが魔法を発動した瞬間、ナイの身体が光り輝き、聖属性の魔力が溢れだす。全身に白炎を纏ったナイは戸惑い、強化術と発動させた時と同じような感覚に陥った。



(な、何だこれ……力が湧きあがる!?)



強化術を発動させた時のようにナイは力が湧きあがり、この状態ならばいつも以上に身体を動かせる事を確信する。その一方でイリアの方はナイの腕を掴み、彼に指示を与える。



「一時的にナイさんの聖属性の魔力を活性化させました!!1分ぐらいなら保ちますから、その間に移動してください!!」

「1分!?」

「さあ、早く!!」



ナイはイリアの言葉に驚き、通常の強化術は30秒も経過すれば効果が切れてしまう。しかし、イリアの魔法は1分もナイの肉体を強化するらしく、彼女の指示通りにナイは動き出す。


強化術を発動させたときと同じようにナイは身体能力が大きく上昇し、イリアを抱きかかえた状態で甲板へと向かう。すると、飛行中は甲板へ出入りが禁じられているのだが、既に大勢の人間が甲板に集まっていた。



「このっ……しつこいですわ!!」

「邪魔だっ!!」

「うおおおおっ!!」



甲板の方では既にドリス、リン、それにゴンザレスが存在し、それぞれが武器を構えて船を取り囲むヒッポグリフの集団と向かい合っていた。ヒッポグリフに乗り込んだ者達は甲板に降りようとすると、彼等が対処を行う。



「ぶっ殺せ!!」

「クエエエッ!!」



ヒッポグリフは背中に乗った人間の指示に従い、3人へ向けて数体のヒッポグリフが突っ込む。その様子を見てゴンザレスは両腕を広げると、ヒッポグリフの突進を止めようと身構えた。

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