閑話 〈闇ギルドの恐怖〉
「――これはどういう事だ!!何故、あの女は飛行船に乗らずに王都に残っている!!しかも情報によると、聖女騎士団に所属していた者達が続々と集まっているだと!?」
「そ、そんな事を我々に言われても……」
前回と同じ場所で王都の闇ギルドの代表たちは集まり、円卓を囲んで座り込む。司会を務めるのは前回の会議の時に飛行船の爆破計画を立てた老人であり、彼は興奮を抑えられずに頭に血管を浮かべながら怒鳴り散らす。
「おのれ、聖女騎士団め……あの厄介な王妃が居なくなって壊滅した思っていたのに……」
「落ち着かれよ。まだ国王は正式に聖女騎士団の再結成を許可したわけではない……」
「何を甘い事を!!既に続々と聖女騎士団の元団員達がここへ集まっているというではないか!!」
「しかし、奴等も十数年の時を経て衰えているはず……少なくとも昔のような強さはないでしょう」
テンはかつての仲間達を呼び集め、たった2日で既に王都の外で暮らしていた元団員達を10名以上も呼び集めていた。殆どの者が聖女騎士団の再結成の話を聞くと賛同してくれ、続々と王都へ集まってきていた。
聖女騎士団が復活すれば闇ギルドにとっては最大の脅威であり、かつて王妃が健在だった時代は王都の闇ギルドは幾度も壊滅の危機に訪れた。そんな騎士団の復活など認められるはずがなく、闇ギルドの代表たちは会議を行う。
「こうなったらなりふり構ってはいられん……テンの奴が可愛がるあの娘達を拉致し、人質として捕まえるのだ!!」
「し、しかしその方法は……」
「バーリの奴が失敗したのはあいつの詰めが甘かったからだ!!我々は同じような失敗はせん!!」
「いえ、そうではなくて……どうやらテンの奴はあの二人を何処かへ隠したらしく、居所が掴めないのです。どうやら王子の屋敷に隠れているわけでもないようで……」
「な、何だと……!?」
テンの弱点があるとすれば彼女が娘のように可愛がるヒナとモモだが、二人とも偶然にも飛行船に乗り込んだ事で王都を離れ、闇ギルドも手を出せない状態だった。他にテンに縁がある者は元聖女騎士団の団員や宿屋によく訪れる冒険者程度である。
冒険者に手を出すのはまずく、冒険者ギルドのギガンはテンと同様に恐れられており、闇ギルドも迂闊に冒険者ギルドに喧嘩を売るような真似は出来ない。だが、元聖女騎士団の団員を襲うなど有り得ず、彼女達はテンにも負けず劣らずの猛者揃いであった。
「こうなっては我々の力を合わせ、あの女を亡き者にするしか……」
「馬鹿な、年老いたとはいえ、相手は剣鬼と恐れられた女だぞ?こちらのどれほど被害が生まれると思っておる」
「……やはり、奴等を動かすしかないのでは?」
テンを抹殺するには闇ギルドも相応の実力を持つ暗殺者を送り込むしかなく、ここで老人に視線が集まる。その視線を受けた老人は冷や汗を流し、答える。
「……確かに奴等ならばテンだろうと始末できるかもしれん。しかし、奴等を動かすとなると相当な金が必要になるぞ」
「この際、他に方法はないのでは……」
「やるしかありませぬ」
「あの騎士団だけは復活させるわけには……」
「……皆の覚悟は伝わった。では、儂の方から奴等に連絡をしておこう」
全員の意見が一致すると、老人は会議を解散させようとした。しかし、この時に円卓の中心に黒い影が差すと、影の中からローブを纏った人物が出現した。
『連絡の必要はない、話は全て聞かせて貰ったぞ』
「うおおっ!?」
「お、お前は……シャドウ!?」
「い、何時からここに……!?」
机から現れた人物を見て闇ギルドの代表たちは震え上がり、裏社会を支配する彼等でさえも恐れるのが目の前の人物であり、独特な声をしていて男なのか女なのかも分からない。
ローブで姿を覆い隠した人物は机の上に現れた円形型の影から抜け出し、影は元に戻る。この人物の正体は「闇魔導士」と呼ばれる魔術師であり、世界も極めて稀な闇属性の魔法使いの使い手である。
闇属性の魔法は生物の生命力を奪うだけではなく、異空間を生み出してその中に物体を収納する事が出来る。だが、闇属性の魔法を得意とする者は非常に少なく、恐らくは世界中を探してもこの男よりも巧みに闇属性の魔法を扱える人間はいない。
「シャドウ……お前の方から現れるとはな」
『闇ギルドの長ともあろう方々がここに集まっていると相棒に聞いたのでな……半信半疑だったが、どうやら正解のようだ』
「ぐっ……」
この場所に集まる事は最新の注意を払っていたのだが、このシャドウと呼ばれている男の魔法は得体が知れず、闇ギルドの代表たちも恐れる存在だった。
※今回の閑話は前後編です。
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