第442話 船内の不審者
(あの人、何をしてるんだ……まさか、闇ギルドの侵入者か?)
ナイは通路を歩く騎士の様子を伺い、暗闇に紛れながら後を付ける。騎士はナイの存在に気付いている様子はなく、迷いなく進んでいく。
騎士が目指そうとしている場所は昨日に捕まえた男二人が捉えられている部屋であり、そこには見張り役の兵士が立っているはずだった。だが、何故か騎士が到着した時には兵士は壁にもたれかかったまま眠っていた。
「ぐうっ……ぐうっ……」
「ふっ……どうやら上手くいったようだな」
倒れている兵士の傍にはサンドイッチが落ちており、どうやら夜食に眠り薬が盛られていたらしく、兵士は完全に気を失っていた。その様子を見て騎士は笑みを浮かべ、兵士から鍵を回収しようとする。
この時点でナイは騎士の正体が闇ギルドの人間だと知り、どうやら捕まえた二人の兵士以外にも仲間がいたらしい。すぐにナイは彼を捕まえようとしたが、ここで疑問を抱く。
(あいつ、どうして今まで気づかれなかったんだ?昼間は他の人間と行動するように指示されていたのに……)
侵入者対策のためにアッシュは騎士と兵士達に行動する時は常に他の人間と共に動く事を命じた。実際にナイはリーナと行動を共にしており、他の者達も常に他の者と行動する。という事は騎士に化けている男も他の者と行動を共にしているはずだった。
行動を一緒にする人間は知り合い同士で固められ、お互いの事を知っている相手ならば仮に「変装」などの技能で片方が本物のそっくりに演じていたとしても、その化けた人間の行動を完璧に演じなければもう片方に不信感を抱かれる。
(あの騎士の相方は相手が偽物だと気付かなかったのか?それとも……まさか!?)
ナイはここである結論に居たり、それは侵入者が一人ではなく、二人いた場合はアッシュの作戦は役に立たない。仮に団体行動を命じられても侵入者同士が共に組めば怪しまれる事はなく行動できる。
すぐにナイは後方を確認し、他に騎士や兵士がいないのかを探し回ると、この時に別の通路から近付いてくる足音を耳にした。
「うふふ……上手くいったようね」
「ああ……ご苦労だったな」
通路から現れたのは若い女性の騎士であり、格好から見る限りは黒狼騎士団の鎧を身に着けていた。ちなみにもう片方の男も同じく黒狼騎士団の格好をしており、どうやらこの二人も闇ギルドの送り込んだ刺客らしい。
「別に苦労なんてしていないわよ。こいつ、私が持って来た物を何の疑いも抱かずに食べてくれたから助かったわ」
「そうか……なら、その変装は解いたらどうだ?」
「そうね……ふうっ、やはり女の姿は疲れるな」
「っ……!?」
女性の騎士はその場で鎧を脱ぎ去ると、顔面に手を伸ばして顔の皮を剥ぐ。正確に言えば女性の顔はどうやら覆面だったらしく、現れたのは変装した女性とは似ても似つかぬ男性の顔だった。
変装を解いた途端に先ほどの女性の原型すら残っていない男性の身体へと変貌し、この時点でナイは相手が「変装」の技能を生かして完璧に女性に化けていた事を知る。しかし、いくら技能の力とは言え、先ほどまで男性は完璧に女性の姿で過ごし、動き方や仕草も完璧の女性にしか見えなかった。
「相変わらず見事な変装だな……腕を上げたな」
「ふっ……そんな事よりも早く行くぞ。ここもいつまでも人が来ないとは限らん」
「ああ、船の爆破は諦めるんだな?」
「粉末袋が取り上げられた以上はどうしようもあるまい……中の奴等を始末したら行くぞ」
どうやら二人の目的は先に捕まった侵入者二人を救い出す事ではなく、始末して船から脱出するつもりらしく、流石のナイも黙ってはいられずに二人を捕まえるために動く。
(この二人も闇ギルドの人間か……油断しない様に気を付けないと)
相手は闇ギルド側が送り込んだ人間であるため、ナイは油断せずに背中の旋斧に手を伸ばす。だが、ここで通路内では大剣などの武器は使いにくい事に気付き、ここは敢えて別の武器で対処する事にした。
(まずは片方の動きを止める!!)
刺剣を引き抜いたナイは厄介な変装の技能を扱える相手に視線を向け、刺剣を構えて狙いを定める。この際に「命中」の技能を発動させ、狙いを外さない様に気を付けながらナイは放つ。
しかし、ここでナイは自分の素の身体能力が上昇している事を忘れ、魔物を相手に使う時のように刺剣を投げてしまう。その結果、刺剣は扉を開こうとした男の腕に突き刺さり、腕を貫通して壁に深く突き刺さる。
「うぎゃあああっ!?」
「なっ!?お、おい!?」
「えっ……」
扉を開こうとした男の腕が刺剣によって壁に封じられ、それを見た相方の男が焦った声を上げる。ナイは腕を刺剣で突き刺して相手が混乱している隙に仕掛けるつもりだったのだが、予想外の刺剣の威力によって変装の技能を持つ男は壁に利き腕が固定されてしまう。
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