第441話 樹石の薬湯
――ナイ達が魔樹の襲撃を受けた後、すぐにアッシュは調査を行っていた者達を呼び集め、とりあえずは今日の所は船で一晩過ごすにした。森の中に魔樹のような魔物が居る事を確認した以上、やはり安全な場所は湖の上に浮かぶ船だと判断した。
幸いにもリュウ湖には人を襲うような水棲の魔物は確認されず、魔樹は泳ぐ事が出来ないので湖に浮かんでいる間は襲われる心配はない。今日の所は船で一晩明かした後、明日の早朝に出発する事が決まる。
「ふうっ……やっと魔石を取り換えたぞ」
「あ、お疲れ様です。これを飲んでください、さっき倒した魔樹の樹石から薬湯です」
「おおっ、すまんな……気が利くのう」
ナイはハマーンと彼の弟子たちのために先ほど回収した樹石を細かく砕き、お茶に混ぜて作り出した薬湯を渡す。樹石は貴重な代物だが、ハマーン達の疲れを取るためにナイは薬湯を作って待っていた。
「ふむ、変わった臭いはするが味は悪くないな……おおっ!?一気に身体が軽くなったぞ」
「上質な回復薬は怪我の治療だけじゃなく、体力を回復させる効果も高まりますから……」
「なるほど、それは素晴らしいのう……お主、薬学の知識もあるのか?」
「医者の知り合いもいるので……」
子供の頃からナイは薬の調合を行い、イチノに居た医者のイーシャンから薬学を学んでいた時期もある。陽光教会に居た時も彼はナイの元へ訪れてくれ、薬学の本を渡してくれたりもした。
薬湯を飲んだ事でハマーンも彼の弟子たちも疲れが吹き飛び、彼等はナイに感謝した。特にハマーンも樹石という貴重な素材を利用して薬湯を作ってくれた事に感謝する。
「すまんな、坊主……儂等のためにこんな貴重な薬まで使ってくれるとは」
「まだまだ残ってますから気にしないでください」
「いいや、そういうわけにはいかん!!小髭族は受けた恩は必ず報いる!!という事で何かお礼をさせてくれんか?」
「お礼、ですか……でも、この間に装備を見て貰ったばかりなのに」
ハマーンは何かナイに報いる事は出来ないのかを尋ねるが、それに対してナイは困り果てる。先日にハマーンはナイの装備を強化してくれたのでもう他に頼める事はない。金銭を要求するという手段もあるが、ナイは別にお金には困っていない。
「う〜ん……特に今は頼みたいことはないですね」
「そうか……ならば金目の物を作ってやろうか?金に困った時に役立つぞ」
「金目の物?」
「装飾品の類じゃ。何か欲しい物はないのか?指輪でもネックレスでも作ってみせるぞ」
「指輪……」
ナイは装飾品と聞いて真っ先に思いついたのが「指輪」であり、指輪ならば持ち運ぶ時には邪魔にもならず、簡単にお金に換えやすい代物だと思った。
「じゃあ、指輪を作ってくれますか?あ、でもそんなに高い物じゃなくても……」
「指輪か、任せろ!!この儂の腕に賭けて最高の指輪を作り上げてやろう!!」
「えっ!?」
ハマーンはナイの言葉を最後まで聞かず、彼はその晩にナイのために指輪を作り上げた――
――翌日、徹夜したのかハマーンは眠たそうな表情を浮かべながらもナイの部屋に訪れ、彼に指輪を渡す。どうやら指輪の素材はミスリルらしく、ナイが所持する旋斧を想像させる紋様が施されていた。一目見ただけで値打ちの物である事が分かる代物であり、作り出したハマーンも満足げな表情を浮かべる。
「出来たぞ、儂が作り上げてきた指輪の中で最高傑作と言っても過言ではない」
「これって……ミスリルですか!?こんな高価な物、受け取れませんよ!?」
「遠慮はいらん、というよりもここまで人に苦労させといて受け取らんとは失礼ではないか!?」
「ええっ!?」
徹夜明けのせいかハマーンは普段よりも落ち着いておらず、逆切れして無理やりにナイに指輪を渡す。まさかこんな高価な物を貰うとは思わなかったナイは戸惑うが、人の好意を無下にする事は出来ず、素直にお礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
「何、気にするな……じゃあ、儂は出発までは少し寝かせてもらうぞ」
「あ、はい。お疲れさまでした……」
指輪を無理やりに渡すとハマーンははそのまま自分の部屋へ戻り、飛行船が出発する時刻を迎えるまで眠るつもりらしい。まだ外も暗く、朝日も登っていない。
ハマーンが部屋に着た事でナイは目が冴えてしまい、出発までまだ時間はあるとはいえ、この際に訓練でもしようかと甲板の方へ移動を行う。この時、ナイは他の者を起こさない様に「隠密」と「無音歩行」を発動させ、存在感を消しながら移動を行う。
(あんまり騒ぎ立てると他の人に迷惑だよね……あれ?何だ、あの人?)
通路を移動中、ナイは騎士の格好をした男が歩いている姿を確認する。こんな時間帯に一人で出歩いている騎士にナイは不審に思い、後を追う。この時にナイは「気配感知」と「暗視」と「観察眼」の技能を発動させ、注意深く様子を伺う。
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