第440話 魔樹
「この……いい加減にしろぉっ!!」
「ジュラァッ!?」
剛力を発動させて筋力を強化させたナイは自分を拘束する蔓を力ずくで引き千切り、脱出に成功した。このナイの行動に魔樹は驚愕の表情を浮かべるが、即座にナイは旋斧を引き抜いて魔樹に放つ。
「このぉっ!!」
「ジュギャアアッ!?」
「うわっ……ナイ君、凄い!?」
旋斧を叩き込まれた瞬間にナイの何倍もの体長を誇る魔樹が吹き飛び、他の樹木を巻き込みながら倒れ込む。そのあまりの規格外の腕力にリーナは呆気に取られた。
一方でナイの方も剛力を使用したとはいえ、あれほど巨大な相手を簡単に吹き飛ばせた事に驚きを隠せず、どうやら先日の戦いを乗り越えた事でナイの身体は更に強くなっていた。
(凄い、そんなに力を込めていないのに……よし、ここで一気に終わらせてやる!!)
倒れ込んだ魔樹を見てナイは旋斧を振りかざし、止めを刺すために魔法剣を発動させようとした。しかし、倒れ込んだ魔樹は怒りの表情を抱くと、根っこの部分を伸ばしてナイの元へ放つ。
「ジュラァアアッ!!」
「うわっ!?」
「ナイ君、下がって!!」
再びナイを拘束しようとしたのか樹魔は根っこを伸ばすが、それに対してリーナは蒼月の力を解放させ、刃に冷気を纏わせながらナイに接近する植物を切り裂く。この際に斬りつけられた部分が凍結化して砕け散り、樹魔は悲鳴を上げる。
「ジュララッ!?」
「効いてる!?そうか、こいつは植物だから冷気には弱いのかも……」
「そういう事なら……ナイ君、力を貸して!!僕の槍に君の剣を!!」
「えっ?」
リーナは何かを思いついたのかナイに蒼月を構えると、その彼女の行動にナイは戸惑うが、すぐに意図を察して旋斧を構えた。
二人の武器が重なると、リーナは蒼月の能力を発動させて魔法槍へと変化させる。この際に蒼月の放つ水属性の魔力を吸い上げ、ナイの旋斧は蒸気を発する。その様子を見てリーナは驚く。
「あ、あれ!?どうして煙が……」
「ごめん、説明は後でするよ。今はこいつを倒す事に集中しよう!!」
「ジュララッ……!!」
リーナの目的は蒼月で魔法槍を発動させ、この際にナイの旋斧に魔力を分け与えて魔法剣を発動させる補助を行おうとした。蒼月を発動させる際はリーナは余分に魔力を消耗する癖があるため、それを利用してナイの旋斧に魔力を分け与えようと考えたのだが、生憎と今のナイの旋斧は水属性の魔法剣は扱えない。
しかし、水属性の魔力を吸収した事自体は無駄ではなく、刀身は火属性と水属性の魔力が相殺する際に蒸気を生み出す。この蒸気を利用してナイは魔樹に攻撃を仕掛けた。
「うおおおっ!!」
「やぁあああっ!!」
「ジュラァッ……!?」
魔樹は接近する二人に対して無数の枝と蔓を伸ばして攻撃を仕掛けるが、二人は「瞬脚」の技能を生かし、更に優れた反射神経で全ての攻撃を回避しながら魔樹の本体へ向かう。
蒸気を放つ大剣と冷気を纏う槍が魔樹の人面に向けて放たれ、二人の攻撃によって魔樹の肉体は崩壊し、粉々に砕け散った――
――偶然にも森の中で遭遇した魔樹を倒す事に成功したリーナはすぐに引き返し、報告を行う。この森に魔樹が存在した事が初めて発覚し、無事に戻って来た二人にアッシュは安堵した。
「まさかあの魔樹がこの森に生息していたとは……この森も安全とは言い切れないな」
「びっくりしたよ。普通の薬草が生えていると思ったらまさか魔物の身体の一部だったなんて」
「きっと薬草に擬態して獲物を招き寄せようとしてたんだね」
魔樹は身体の一部を薬草に擬態させ、薬草を見つけた相手を招き寄せ、隙をついて捕獲するつもりだったのだろう。魔樹はリーナも初めて戦った相手らしく、ナイに頭を下げた。
「ごめんね、ナイ君……僕が迂闊に触ろうとしたせいで襲われたんだよね」
「気にしなくていいよ。あんなの、誰も気づかないだろうし……それに魔樹を倒した時にこれを手に入れたんだ」
「それは?」
ナイは魔樹を倒した際、魔樹の肉体から緑色に光り輝く琥珀のような物を発見した。宝石のように見えるが実際は樹液の塊であり、前にナイは陽光教会に世話になっていたときに見かけた代物である。
「これは回復液の塊だよ。前に教会の人に教えてもらったんだけど、魔樹のような回復薬のように飲むだけで高い回復効果を生み出す回復液を生み出せるって……これはこの回復液の樹液の塊だろうね」
「樹液の塊……そんな物が役に立つの?」
「回復薬の素材としては普通の薬草よりも高い効果を持つんだよ。素材として価値は高いし、このまま飲み込んでも効果があるから持っておいて損は無いよ。ちなみに名前は「樹石」というらしいんだ」
「へ、へえ……そうなんだ」
リーナはナイの説明を聞いて樹石に視線を向け、まさか魔樹からこのような素材が回収できるなど初めて知った。樹石の事はナイもヨウから教わり、彼女の事を思い出したナイは気を引き締め直す。
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