第443話 対人戦

「痛い、痛いぃいいっ!?」

「お、落ち着け!!大声を出すな、気づかれるぞ!!」

「ひいいっ……!?」



刺剣によって腕が壁に固定された男は泣きわめき、慌ててもう一人の男が落ち着かせようとした。その様子を見てナイは冷や汗を流し、自分の手に視線を向ける。



(しまった……力加減を誤った)



腕に刺剣を突き刺して相手が怯んだ隙に捕まえるつもりだったが、投げる力が強すぎて男の腕を刺剣は貫通し、壁に突き刺さった。しかも突き刺さった刺剣は片方の男が引き抜こうと両手で掴むが、いくら引っ張っても壁から抜けない程に深く刺さっていた。



「くそっ!?どうなってるんだ……抜けないぞ!?」

「ひぎぃっ!?や、止めろ!!痛い、痛いぃ……!?」

「馬鹿、暴れるな……抜けないだろうがっ!!」



冷静さを失った男達は必死に壁から刺剣を引き抜こうとするが、腕が突き刺さった男の方は泣きわめき、刺剣を引き抜こうと相方の男が力を込める度に血が滲む。


下手に抜こうとすると逆に男の腕を痛めている事に気付かず、相方の男は必死に壁から刺剣を引き抜こうとした。それを見たナイは慌てて彼を止めるため、技能を解除して向かう。



「止めろっ!!」

「何ぃっ!?」

「ひいいっ!?」



隠密の技能を解除した事でナイの存在に気付いた二人組は目を見開き、先ほどまで彼等は全くナイの存在には気づいていなかった。しかし、すぐに相方の男はもう片方の男を放置すると、腰に差していた短剣を引き抜く。



「このガキ!!」

「っ……!!」



狭い通路内では長剣や大剣の類よりも短剣の方が有利であり、近付いて来たナイに対して男は短剣を突き刺す。下手に振り払うと壁に衝突する危険もあるため、男の行動自体は間違いではない。


しかし、男の相手は悪すぎた。ナイは疾風のダンのような有名な傭兵や黄金級冒険者のリーナと戦った事があり、あの二人と比べると男の攻撃など恐れもせずに冷静に対処する。



「ふんっ!!」

「なっ!?」



ナイは突き出された短剣を下から蹴り上げると、短剣は天井へ突き刺さり、武器を失った男に対してナイは拳を固めて叩きつける。



「このぉっ!!」

「ぐはぁあああっ!?」

「ひいいっ!?」



鎧を身に着けている男に対してナイは拳を握りしめると、剛力を発動させて殴りつける。その結果、巨人族に殴りつけられたかのように男は吹き飛び、壁に衝突して倒れ込む。


男が殴りつけられた衝撃が船に広がり、すぐに異変を察知した者達は目を覚ます。慌てて近くの部屋で待機していた者達は通路に躍り出ると、そこには倒れている騎士と壁に腕が突き刺さって動けない見知らぬ男、その二人を見下ろすナイを見て戸惑う。



「こ、これは……いったい何が起きたんだ!?」

「貴方は……ナイさん!?どうしてここに!?」

「何が起きたんですか!?」

「あ、えっと……」



駆けつけてきた兵士の質問にナイは戸惑い、とりあえずは状況を説明しようとした時、ここで何処からかマホが現れた。



「そこを退いてくれぬか?」

「マ、マホ魔導士!?」

「エルマよ、その者を見てくれ」

「は、はいっ!!」



寝間着姿のマホとエルマが現れると、彼女達は兵士を押し退けて倒れている男の元へ近づき、エルマは壁に刺剣が突き刺さって身動きが取れない男を助ける。その一方でマホの方は倒れている男に視線を向け、眉をしかめる。


ナイが殴りつけた際に男は胸元の部分に拳の凹みが存在し、もしも鎧を身に着けていなければ絶命は免れなかった。彼女は男が生きている事を確認すると、ナイへ振り返った。



「安心しろ、ナイ。この者達はまだ生きておる」

「えっ……あ、良かった」

「しかし、これはちとやり過ぎじゃぞ……」



マホは困った表情を浮かべて倒れている男とエルマに助けられた男に視線を向け、どちらも重傷の身だった。危うくナイは彼等を殺しかけてしまった事を自覚し、身体を震わせる。



(あと少しで人を……殺すところだった)



これまでにナイは人間を相手に戦う事は合っても人を殺した事はなく、どんな悪党も痛めつける程度で済ませていた。だが、今回は相手が悪党だとはいえ、自分が強くなった事を自覚せずに技能まで使用して戦ってしまった。


この男達を無力化するならばナイは技能など使わなくても十分に対処できるはずだった。しかし、いつもの癖で技能に頼ってしまい、危うく二人を殺しかけた事にナイは恐怖を抱く。


その様子を見ていたマホは複雑な表情を浮かべ、ひとまずは男達を治療してから他の者に何が起きたのか状況説明する事にした――





※あまりにも成長が早過ぎたせいでナイ自身も自分の力を把握しきれていませんでした。

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