イチノ帰還 緑の巨人編

第405話 シノビとクノ

――イチノの防衛を行っているのは銀狼騎士団と警備兵だけではなく、住民の中でも戦力になりそうな人間は民兵として戦う中、街に残った冒険者も戦っていた。



「兄者、そちらは任せるでござる!!」

「気を抜くなよ、クノ!!」

「グギィイッ!?」

「ギギィッ!?」



市街地にまで入り込んだホブゴブリンとゴブリンを追跡するのはかつてナイと会って会話をした事もある金級冒険者の二人組だった。この二人は兄妹であり、兄の方は「シノビ」妹の方は「クノ」という。


二人は街の中まで侵入してきたホブゴブリンとゴブリンの対処を行い、逃げ回るゴブリン達に目掛けてシノビは短刀を抜くと、目にも止まらぬ速度でホブゴブリンの首を切り裂く。



「斬!!」

「ッ――!?」



悲鳴を上げる暇もなくホブゴブリンの首は吹き飛び、その間に妹のクノはゴブリンの集団を先回りすると、両手に複数のクナイを取り出し、同時に放つ。



「投!!」

「ギャアアッ!?」

「アガァッ!?」

「ギィアッ!?」



投げ放たれたクナイは全て急所に命中し、ゴブリン達は倒れ込む。クノはその様子を見て手元を引き寄せると、クナイに取り付けられた糸が彼女の指に嵌めている指輪と繋がっており、身体から抜けるとクノの元へ戻る。


複数の敵を同時にしかも急所を確実に撃ち抜けたのはクノがナイと同様に「投擲」と「命中」の技能を習得していたからであり、更に兄のシノビの方も見事な剣の腕前だった。



「兄者、お見事でござる」

「お前もな……だが、休んでいる暇はなさそうだ」

「むっ!?あっちから悲鳴が……急ぐでござる!!」



別の場所から住民の悲鳴が聞こえ、二人は急いで駆け出す。どちらも移動速度が普通の人間とは比べ物にならず、しかも恐るべき跳躍力で建物の屋根の上を移動する。


どちらもナイと同様に「俊足」と「跳躍」の技能を身に着けており、さらに二人ともナイよりも高度な「隠密」の技能で気配を完全に殺す事が出来る。もしも普通の人間ならば二人の姿がまるで透けているように見えるだろう。


ちなみにナイが以前に戦った「疾風のダン」も隠密の使い手ではあるが、技量は同程度でも二人の方が素早く動けるだけ戦闘力が高い。



「見つけたでござる!!右の通路にゴブリンが3体、男性を追いかけているでござる」

「こちらも発見した。左側にゴブリンが2体……別れるぞ」

「承知!!」



二人は屋根の上を駆け巡りながら次々と街中に入り込んだゴブリンの討伐を行う――






――それからしばらく時間が経過し、夕方を迎えると二人は流石に走り続けたせいで体力も切れかかり、お互いに背中を合わせながら座り込む。



「つ、次は何処でござる……」

「落ち着け、クノ……日が暮れた。奴等はもう襲ってこない」

「おお、そうでござるな……それにしても流石に疲れたでござる」

「忍者の癖に情けないぞ」

「そういう兄者も汗だらだらでござるよ……」



二人は日が暮れる光景を確認すると緊張感がなくなり、身体を休める事に集中できた。その一方で城壁の方からも歓声が聞こえてきた。



「どうやら今日も乗り切ったようだな」

「そのようでござるな……」



歓声を上げているのは城壁の兵士達であり、ゴブリンとホブゴブリンの軍勢が退却した事を二人は察する。少し休んだ後、二人は報告のために戻る事にした――






――理由は不明だが、イチノを襲うゴブリンの軍勢は日が暮れると何故か退散し、夜の間は攻めてくる事がない。本来、ゴブリンは夜行性なので夜の方が活発的に動けるはずなのだが、何故か最も攻撃しやすい夜の間は軍勢は攻撃を仕掛けない。


最初の内は夜襲の警戒をしていたが、この一か月の間にゴブリン達は一度も夜襲を行わず、シノビとクノが調査に出向いた結果、なんと夜の間はゴブリン達は眠っている事を突き止めた。


夜行性であるはずのゴブリンが何故か夜に眠っている事に関しては謎だったが、夜の間だけはイチノの住民も兵士達も安心して休む事が出来た。しかし、一方で朝を迎えると暗くなるまで彼等は戦い続ける。



「リノ殿、ここにおられたのでござるか」

「その声は……クノか」

「街中に侵入した魔物は始末したでござる。これがその証明でござるよ」

「そうか……」



クノは倒したゴブリンとホブゴブリンから回収した素材を見せると、袋の中に入っているゴブリンとホブゴブリンの片耳を見てリノは顔をしかめる。討伐の証なので確認しなければならないのは分かっているが、戦いがやっと終わった後に血生臭い物を見せつけられていい気分はしない。



「昨日よりも大分数が増えて来たでござるな……正直、街中を守る冒険者だけではそろそろ対応しきれなくなるでござる」

「そうか……だが、城壁の兵士はもう限界だ。これ以上に人手は避けない。街の住民には建物から出ない様に注意はしているが……そろそろ限界か」

「どうするのでござる?」

「……どうしようもない。援軍が来なければ我々には守る事しか出来ないんだ」



クノの言葉にリノはため息を吐き出し、彼も精神的に参っていた。その様子を見てクノは頭を下げ、大人しく下がる事にした――

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