第404話 イチノを救う前にやる事は……
「アルト、イチノへ行くなら僕も絶対に行くよ!!ドルトンさんやイーシャンさん、それにヨウさんも……絶対に助けないと!!」
「そうか、君ならそういうと思っていたよ……だが、今回の遠征は危険を伴う。場合によっては前回の任務の時よりも過酷な状況に陥るかもしれない」
「それは……言い過ぎじゃないのかい?ゴブリンキングが火竜やゴーレムキングに並ぶ存在とは思えないけどね」
アルトの言葉にテンは頭を掻き、いくらゴブリンの軍団が相手といってもナイだって火竜やゴーレムキング討伐の功労者である。だが、アルトが言いたいのは軍団との戦闘の不安ではなく、イチノの事に関してだった。
「もしも到着した時、イチノが滅びていたらどうするんだい?」
「っ……!?」
「ちょ、ちょっと王子様!?」
「酷いよ!!そんな事を言うなんて……」
「君達は黙っていてくれ」
アルトの言葉にナイは目を見開き、ヒナとモモも流石に聞いていられずに怒ろうとしたが、前に王城でテンを叱った時のように彼は真面目な表情を浮かべていた。
ナイはアルトの言葉を聞いて動揺を隠せず、冷や汗が泊まらない。頭では理解していたが、それでも敢えて目を背けていた。その事をアルトは見抜き、指摘した。
「君はさっき、イチノにいる君の知り合いを助けると言ったね。だけど、その知り合いが生きている保証はないんだよ」
「や、止めて……」
「いいから聞くんだ。既に一か月も前からイチノは攻撃を受けている、兄上と銀郎騎士団が警備兵と協力して籠城しているが、今現在も無事であるとは限らない……いや、恐らくだがもう既に陥落している可能性が高いだろう」
「止めてよ……」
「もしも……仮に僕達の到着が間に合わず、イチノが崩壊してたら君は……」
「止めろっ!!」
遂に我慢できずにナイは自分でも驚くほどの大声を上げ、そんな彼をテンは黙って見つめ、ヒナとモモは心配そうな表情を浮かべる。
ナイは養父であるアルが死んだときの事、そして反魔の盾を託したゴマンが居なくなった事を思い出し、頭を抑える。もう二度と大切な人は失いたくはない、そのためにナイは強くなろうとした。
だが、いくら強くなっても現実は非常で予期せぬ事態で簡単に人は死ぬ。アルトの言う通りにもしも援軍が間に合わず、自分の大切な人たちが死んでいたらと考えるとナイは気が狂いそうになる。
「まだ、まだ分からないじゃないか……死んでいるかなんて、分からないのに」
「ああ、君の言う通りだ。もしかしたら街が今でも無事で君の知り合いも生きている可能性だってあるさ……でも、最悪の事態を想定しておいた方がもしもの時は……」
「もしもの時は……何?」
「いや、何でもないよ。けどね、援軍に向かうのなら覚悟は決めておいてくれ。もしも街が崩壊していたら……君は戦えるのかい?」
アルトの言葉にナイは歯を食いしばり、かつて村が魔物に襲われ、自分以外の村人全員が死んだ事を思い出す。あの時は無気力になり、もう自分の人生などどうでもいいと思ったナイは忌子として教会に保護された。
あの時のナイは自分が呪われているから村がこんな目に遭ったのかと思い込んでいたが、ヨウが彼を気遣って隔離するような真似はせず、教会に置いて色々と教えてくれた。ドルトンやイーシャンがナイを心配し、定期的に足を運んで話し相手になってくれた。そのお陰で立ち直る事が出来た。
そんなドルトンやイーシャンやヨウが既に死んでいるかもしれない事にナイは不安を抱き、敢えて彼等が生きている事を前提に助けるという言葉を使った。だが、アルトに指摘された事でナイは現実を向き合う。
「……戦えるよ」
「そうか……なら、いいんだ。すまない、酷な事を聞いたね。では父上には話を通しておくよ」
絞り出す様なナイの言葉にアルトは頷き、そのまま彼は王城へ立ち去る。残されたテン達はナイを見て何か話しかけようとしたが、どうしても今のナイに話しかけられる雰囲気ではない。
ナイは無意識に空を見上げ、ドルトン達の事を思い出す。彼等が生きている事を願い、もしも生きているのならば必ず自分の手で助ける事を誓う。
(今度こそ……救って見せる)
もう二度と大切な人を失わないようにナイは強くなると誓い、ここまで辿り着いた。そんな彼の様子を見てビャクは何かを決意したような表情を浮かべた――
※短めですが、ここで区切ります。次話から新章に突入します。
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