第397話 失った物は大きすぎた……

――ゴーレムキングの経験石が破壊された瞬間、肉体は崩壊して崩れ落ちる。元々はゴーレムキングを構成する肉体はただの溶岩の塊であり、核である経験石が壊されれば冷え切った溶岩に変わり果てる。


完全に砕け散ったゴーレムキングの破片は地面に散らばり、もう復活する事はあり得なかった。先日に倒したゴーレムキングが復活したのはあくまでも経験石が破損していない状態だったため、運よく再生できたに過ぎない。



「マジク……死ぬな、諦めるんじゃない」

「王子……いずれ王となる御方が泣かれてはいけません」

「馬鹿を言うな……お前が居なければ俺は王になどなれん」



ナイがゴーレムキングを倒すためにマジクは最後の魔力を振り絞り、魔法を発動させた。その結果、彼は魔力を使い果たして衰弱化した。この状態ではもうどんな薬も受け付けず、ナイが必死に魔操術で魔力を送り込もうとしても駄目だった。



「くっ……どうして、魔力が……!!」

「……儂の身体は既に死人と化しておる。いくら魔力を送り込んでも死人を蘇らせる事は出来ん……もう儂の肉体は魔力を制御する機能を失っておるのだ」

「そんな……」

「ナイ、といったな……儂の事は気にするな。儂はお主を助けたわけではない、一人でも多く生き残る最善の手段を取ったに過ぎん」

「ふざけるな、何が最善の手段だ……これの何処が!!」



バッシュはマジクの手を握りしめながら涙を流し、彼にとってマジクは第二の父親のような存在だった。マジクはそんな彼に困ったような笑みを浮かべ、彼に語り掛ける。



「王子……立派な国王になってください。貴方ならば父親を越える王となれるでしょう」

「マジク……マジク?」

「……王子様、マジクはもう」



最後に言葉を言い残すとマジクは瞼を閉じて安らな死に顔を浮かべていた。その光景を見てテンは悲痛な表情を浮かべながらもバッシュの肩に手を置き、彼の死を伝えた――






――今回の討伐隊の被害は大きく、半数近くの人間が犠牲になった。しかし、犠牲に見合うだけの大きな成果だけは残したのが不幸中の幸いだった。


王国の最大の脅威であった火竜は死亡し、更に火竜に匹敵する驚異的な存在のゴーレムキングを打ち破る事に成功した。王都の人々はまさか長年の間、王国の人々を苦しめた火竜を討伐した討伐隊を歓迎する。


この一件でバッシュの名声は一気に広がり、民衆は彼こそが次代の国王に相応しい人物だと認識する。しかし、この戦いで国内には3人しか存在しない魔導士の1人を失い、マジクの死は多くの人間が悲しんだ。




国王もマジクとは古い付き合いであり、彼の亡骸を前にして一晩中泣き明かした。先に王都へ帰還していた副団長のドリスとリンに至っては自分達が同行していれば彼をこんな目に遭わせずに済んだと酷く後悔する。


黄金級冒険者であったハマーンとガオウは自分達が力になれなかった事を王子に謝罪するが、リーナの存在が居なければ火竜の討伐も果たせなかった事もあるため、冒険者ギルドの面子は保たれた。


失った物は大きすぎたが、その代わりに手に入れたのは国の脅威となり得る存在を2つも消す事が出来た。今回の最大の功績を上げたのは命を賭して死んでいったマジクだと決まり、死んでいった王国騎士や魔術兵の遺族には多額の恩賞金が支払われた。




実際の所、最大の功績を遺したのは火竜とゴーレムキングを追い詰めたナイであるのだが、ナイ本人は功績を受け取る事を拒否した。自分がもっと強ければ、もっと賢い選択をしていれば犠牲者を減らす事が出来たのにと考え込んでしまい、どうしても恩賞を受け取る気にはなれなかった。



「はあっ……」

「ナイ君、大丈夫?」

「ちゃんとご飯は食べないと駄目よ」



アルトの屋敷にてナイはモモとヒナと食事を行うが、あまり食欲がわかない。他の者は火竜とゴーレムキングの討伐の件で色々と後始末があるらしいが、ナイはあくまでも協力者に過ぎないので早いうちに解放された。


今の所はナイは何もせずにアルトの屋敷に引きこもり、いつも通りの日常を過ごしていた。だが、ナイはどうしても気分が晴れず、あまり食べ物も喉を通さない。



「もう、いつまでも落ち込んでいたら駄目よ!!今日のご飯もモモがナイ君のために頑張ったのよ!?」

「ヒナちゃん、怒鳴ったら駄目だよ……よしよし、寂しいなら慰めてあげるからね~」

「むぐっ……」



ナイを慰めようとモモは彼の顔を自分の大きな胸元で挟み込み、子供をあやす様に撫でまわす。しかし、普段の無いならば頬を赤くして離れるところだが、今のナイは考えごとに夢中で特に反応しない。


食事を終えた後はナイの気晴らしのためにヒナとモモが彼を連れて街にでも行こうかと思った時、思いもよらぬ人物が訪れる。それはアルトであり、彼はナイの顔を見ると笑顔を浮かべて話しかける。

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