第396話 雷の大斧
「旋……斧……?」
薄らぐ意識の中、ナイは火竜の尻尾に突き刺さったままの旋斧に気付き、身体を這いずって旋斧の元へ向かう。皆が戦っているのに気絶などしていられず、ナイは旋斧に手を伸ばす。
ナイの手が触れた途端、旋斧の刃から電流が激しく迸り、それを見たナイは意識を覚醒させる。いったい何が起きたのか、旋斧の刀身には凄まじい雷属性の魔力が蓄積されていた。
(この感じは……そうか、マジクさんの魔法を吸収したのか!?)
火竜の肉体に突き刺さっていた状態の旋斧は火竜が攻撃を受けた時、彼の放った雷属性の魔法が火竜に流れた際、膨大な雷属性の魔力を吸収した。しかも変化はそれだけではなく、刀身が異様なまでに伸びていた。
現在の旋斧は岩砕剣にも匹敵するほどの「大剣」へと変化を果たし、更に刀身は赤く染まっていた。旋斧の変化にナイは戸惑うが、今はゴーレムキングを倒す事に集中する。
「ウォンッ!!」
「ビャク!?もう平気なのか?」
「ウォオンッ!!」
まだ傷が痛いだろうにビャクがナイの元に駆けつけ、彼は自分の背中に乗る様に促す。ナイは頷き、ビャクの背中に乗り込むとビャクは駆け出す。
『ゴガァアアアッ……!!』
「ウォオオオンッ!!」
「うおおおおおっ!!」
ゴーレムキングが両腕に張り付いた氷を破壊し、動き出そうとする光景を目撃したナイとビャクは咆哮を放ち、注意を引く。ナイはゴーレムキングの様子を観察眼で確認し、ある事に気付く。
(あいつも限界なんだ!!もうさっきの攻撃をする力も残っていない!!)
先ほど火炎放射を発生させたゴーレムキングだが、どうして現在は力ずくで凍り付いた身体を動かそうとしているのか、その理由はゴーレムキングはもう凍り付いた自力で溶かせる程の火属性の魔力が残っていないのだ。
仮に火属性の魔力が残っているのならば最初から氷を溶かしているはずであり、最後にナイに攻撃を加えた時に体内の火属性の魔力をほぼ使い果たしたのだろう。決して無尽蔵に魔力を生み出せるわけではなく、事前に蓄積された魔力を使い切ればもう能力は扱えない。
(爺ちゃん!!ゴマン!!力を貸して!!)
旋斧を握りしめながらナイは反魔の盾を振りかざし、ミイナに向けて放つ。彼女は驚いた様子で反魔の盾を受け止めると、ナイはミイナに告げた。
「ミイナ!!それで俺を飛ばして!!」
「盾……分かった!!」
ミイナはすぐに意図を察すると、彼女は如意斧の刃の部分に盾を張り付けて準備を行う。それを見たナイはビャクに自分をミイナの元まで飛ばす様に頼む。
「ビャク!!」
「ウォンッ!!」
「お前達、いったい何を……!?」
ナイの行動にバッシュは戸惑うが、今は説明している暇も惜しく、ビャクはナイの服に噛みつくと全力で首を動かしてミイナの元へ放り投げる。空中に飛んだナイを見てミイナは如意斧を加速させ、更に反魔の盾の反動を利用してナイを吹き飛ばす。
「てりゃあっ!!」
「くっ……うおおおっ!!」
『ゴアッ!?』
再びナイはゴーレムキングの胸元に目掛けて突っ込み、先ほどよりも加速した状態で旋斧を振りかざす。雷を纏い、更に大剣の如く伸びた刀身を胸元の宝石に向けて叩き込む。
刃が宝石に触れた瞬間に激しい電流が周囲に走り、宝石に刃が食い込む。この際にゴーレムキングは絶叫し、ナイは獣のような咆哮を放つ。
『オァアアアアッ!?』
「がああああああああっ!!」
刃が徐々に宝石に食い込み、ゴーレムキングは悲鳴を上げる。宝石の正体はゴーレムキングの経験石であり、普通の経験石ならば少しでも壊れれば崩壊するが、流石にゴーレムキングの経験石となると頑丈で簡単には壊れない。
しかし、ナイは決して旋斧を手放さず、破壊するまで握りしめる。だが、ここで旋斧に蓄積された電流が少なくなり、雷属性の魔力が切れかかった。
「ナ、ナイ君の剣が……!?」
「やばい、魔力が切れかかってるんだ!!」
「そんなっ!?」
ナイは魔法腕輪に視線を向け、雷属性の魔力を送り込む。だが、それだけでは補え切れず、徐々に刀身の電流が弱まるほどに刃に食い込んだ宝石が輝きを強める。
『アァアアアッ……!!』
「く、くそっ……負けるかぁっ!!」
ゴーレムキングは宝石を光らせ、徐々に食い込んだ刃を押し返す。どうやらゴーレムキングは経験石を再生する機能まで持ち合わせているらしく、このままではナイの旋斧が押し返されると思われた瞬間、マジクが杖を構えた。
「残りの儂の全魔力……お主に賭けるぞ!!」
「マジク!?止めろ、それ以上に魔法を使えば……」
「バッシュ王子……後の事は任せました」
魔法を発動させようとするマジクを見てバッシュは引き留めようとしたが、彼は杖を掲げた瞬間に黒雲が発生し、そして一筋の雷がナイの旋斧の刀身に降り注ぐ。
「サンダーボルト!!」
「ッ――!!」
『アギャアアアッ!?』
旋斧の刀身に新たに雷属性の魔力で構成された雷が降り注いだ瞬間、旋斧の電撃が強まり、遂にゴーレムキングの核である経験石が砕けた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます