閑話 マホの墓参り

――マジクの墓は王都内の彼が世話を見ていた孤児院にて建てられる。実を言えばマジクは元々は孤児であり、孤児院で育っていた。彼を見つけ出したのはマホであり、まだ子供だったマジクを育て上げ、立派な魔術師にさせたマホは親代わりに等しい。


彼の墓の前でマホは両手を合わせて彼の冥福を祈り、その隣ではエルマは泣きじゃくっていた。エルマはマジクとは親しく、その後ろではゴンザレスが彼女を慰める様に肩に手を置く。



「う、ううっ……」

「もう泣くな、エルマ……マジク魔導士も今のお前の姿を見たら困るだろう」

「その通りじゃ……悲しいのは分かるが、マジクならばお前に笑って欲しいと思うだろう」

「す、すいません……」



マホは優しくエルマの頭を撫でてやり、彼女はマジクの墓を見つめた。まさか彼が死ぬなど思いも知らず、やはり自分が無理をしてでも後を追うべきだったかと思う。


目覚めた後のマホは討伐隊が戻るまでの間は静養を強いられ、討伐隊の援護に向かう事が出来たなかった。そのため、彼が死んだと聞いときは激しく悔やんだ。



(マジクよ……お主は魔導士として儂よりも高みに立てたのじゃな)



討伐隊からマホは話を聞く限りではマジクの魔法によって火竜に止めを刺したと言っても過言ではなく、同じ魔導士であるマホでも火竜を倒せる程の魔法を生み出す事は出来ない。自分にも倒せない火竜をマジクが倒したという事に彼女は誇りに思い、墓に眠るマジクに心の中で語り掛けた。



(後の事は儂に任せるがいい……お主は安らかに行くがいい)




マホは空を見上げ、天国に向かったであろうマジクの事を思い浮かべる。この時にマホの頭の中に浮かんだマジクの顔は笑顔だった――






――玉座の間にて国王は深く項垂れ、その様子をシンは心配そうに見つめていた。マジクの死は彼にとっても相当な衝撃だったらしく、この数日の間は碌に眠っていない。



「国王陛下……マジク殿がいなくなってお辛いのは分かりますがしっかりとしてください。貴方はこの国の王なのですぞ」

「分かっておる……」

「国王陛下……」



言葉とは裏腹に国王は生気のない表情を浮かべ、その様子を見たシンはため息を吐き出す――






――その一方でアッシュ公爵はテンと共に昼間から酒場に立ち寄り、二人は酒を飲む。どちらも酒豪なので大量の酒瓶が机の上に並べられるが、今日はいくら飲んでも酔いそうな気分ではない。



「ふうっ……あんた、こんな所にいていいのかい?」

「構わん、俺の部下は優秀だからな。1日ぐらいは放っておいても平気だ」

「ああ、そうかい……」



二人ともマジクとは古い付き合いであり、どちらもマジクには頭が上がらなかった。そんな彼を死なせたことにテンは落ち込み、アッシュは自分が彼の死に目に傍にいなかった事を嘆く。



「……明日からはお互い、元通りに生活するよ。マジク魔導士もきっとそう望んでいるはずだからね」

「そうだな……」



テンとアッシュは杯を交わし、苦笑いを浮かべる。この1杯を最後に二人は元通りの生活を送る事を決めた――





――その頃、ナイはベッドの上に横たわり、何もせずに天井を見上げていた。今は何もやる気が起きず、討伐隊の中で死んでいった者達を思い返すと悔やみきれない。



「ちくしょう……」



また自分が他の人間を守れなかった事にナイは涙を流し、もっと強くなって大勢の人を守れる力が欲しいと思った。






※マジクは作中でもかなり重要なキャラでした。本当はもっと彼を活躍させたい気持ちもありましたが、火竜やゴーレムキングという存在を相手に犠牲を出さずに勝利するという展開がどうしても描けませんでした……

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