第389話 火竜の戦慄
――この男だけはここで殺さなければならない、そのように判断した火竜の行動は素早かった。ナイに対して火竜は確実に殺すため、跡形もなく焼き尽くそうと胸元に火属性の魔力を集中させる。
火竜は胸の中に経験石が存在し、その経験石に膨大な火属性の魔力を蓄積させている。この魔力は長年の間、火竜が摂取し続けてきた火属性の魔石から吸収した魔力であり、いざという時は攻撃のために利用できる。
胸元に蓄積させた魔力を口に移動させ、外部に放つ。それが火竜の誇る最大の攻撃「
「アガァアアアッ……!!」
「くぅっ……!?」
自分に向けて口元を開き、胸元を赤く発光させる火竜を見てナイは膝を着く。強化術はまだ切れていないが、先ほどの踏みつけで思っていた以上に損傷が激しく、上手く動けない。
逃げる事も出来ずにナイは火竜を見上げると、十分に魔力が集まったのか火竜は火球を放とうとした。しかし、口元から吐き出す寸前で火竜は異様な感覚に襲われる。
「アアッ――!?」
唐突に火竜は身体に力が入らなくなり、巨体が傾いて見当違いの方向に火球を放つ。火球は空へ向けて放たれ、そのまま遥か上空にまで移動し、空中で四散した。
「シャアアッ……!?」
「……何とか、間に合ったな」
火竜は何が起きているのか理解できずに戸惑っていると、ここでナイは笑みを浮かべた。彼の視線の先には尻尾に食い込んだ旋斧が存在し、現在の旋斧の刃は黒色に変色していた。
――ナイが旋斧を手放す寸前、彼は魔法腕輪から闇属性の魔力を引き出し、魔法剣を発動させた。その結果、火竜の体内には現在闇属性の魔力が流れ込む。
聖属性の魔法が生命力を活性化させる能力を持つのに対し、闇属性の魔力はその真逆の生命力を奪う効果を持つ。闇属性の魔力が体内に流れ込んだ火竜はまるで「猛毒」を流し込まれたように生命力が低下し、思うように動けない。
あまりにも危険な力なのでナイも普段は闇属性の魔法剣は控えていたが、相手は竜種となると手段は選べない。ナイは地面にめり込んだ岩砕剣に手を伸ばし、片手で引き抜く。
「うおおおおっ!!」
「シャアアッ!?」
岩砕剣を手にしたナイは火竜に向けて叩き込むと、火竜は悲鳴を上げて地面に倒れ込む。通常状態の火竜ならばナイの攻撃を受けても怯みもしないだろうが、現在の火竜は身体が麻痺したかのように思うように動けない。
(こいつを倒すには……あそこを狙うしかない!!)
ナイは左腕を構え、腕鉄鋼に内蔵されたフックショットを構える。狙いは火竜の頭部であり、命中の技能を発動させて放つ。
「当たれぇええっ!!」
「アギャアアアッ!?」
火竜の瞳に目掛けてミスリル製の刃が放たれ、見事に瞳に的中した。火竜は右目を貫かれて悲鳴を上げ、この際に首を激しく動かしてしまう。
ナイの放ったフックショットが火竜の目玉に食い込んだ際、火竜が首を動かすと鋼線を通じてナイの身体も引っ張り上げられる。それを逆に利用してナイは岩砕剣を握りしめた状態で火竜の顔面へと迫る。
「くたばれぇっ!!」
「ッ――!?」
火竜に目掛けてナイは突っ込むと、この時に火竜は身を防ごうとしたが、背中の翼や尻尾は既に存在しない。迫りくるナイを翼で叩き落す事も尻尾で叩きつける事も出来ず、このまま頭を切り裂かれると思われた瞬間、咄嗟に火竜は口元を開く。
「アガァッ!!」
「うわっ!?」
悪あがきとばかりに火竜は口元から煙を放ち、それによってナイは視界を封じられて攻撃に失敗してしまう。先ほどは火球を出す際に失敗したが、口内から煙を吐き出す事でどうにか火竜は一命を取り留めた。
攻撃が失敗したナイはそのまま地面に向かい、この際、フックショットの鋼線が切れてしまう。そのままナイは地面に倒れ込み、強化術が切れてしまう。
「ぐあああ……!?」
「シャアアッ……!!」
強化術が切れた反動でナイは全身に筋肉痛を負い、急いで魔法腕輪の聖属性の魔石から魔力を吸収して再生術を発動させようとした。だが、倒れ込んだナイを見て火竜が見逃すはずがなく、片目から血を流しながらも火竜は牙を繰り出す。
「シャアアッ!!」
「ぐぅっ……!?」
「ウォンッ……!?」
ナイを救うために地面に叩きつけれて倒れていたビャクは起き上がろうとするが、彼が動く前に火竜の元に接近する影が存在し、それは蒼月を構えたリーナとミイナだった。
「ミイナちゃん、僕を飛ばして!!」
「んっ!!」
ミイナは如意斧を振りかざすと、柄を伸ばす。この際にリーナは如意斧の刃の腹の部分に足を付けると、ミイナは持ち前の怪力を生かしてリーナを火竜の元へ飛ばす。
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